東京発信のオルタナティヴ・ロック、THIS IS JAPANのダイナミズムと新しさ

シーンに切り込むTHIS IS JAPANの覚悟
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koyabin(Vo&G)/撮影=東美樹(miki azuma)

 長くなったが、本題。8月20日に下北沢シェルターでTHIS IS JAPANのライブを見た。

 暗転と同時に鳴ったSEはフガジの「Waiting Room」。90年代リアルタイム世代にとっては「ベタ」とも言える選曲だが、彼らは26~28歳のバンドである。「なんでフガジ?」の好奇心が一気に膨らんでくる。メンバーの佇まいも、なんというか、今風とは少々ズレている。絶妙な長さでスタイリングされたマッシュボブではなくて、放置して伸びすぎた前髪を自分で切り落としました、イビツだけどどうでもいいや、みたいな感じ。一言でいうなら、無骨だ。

 音はさらにイビツ。THIS IS JAPANは作曲者およびフロントマンが二人いるのが特徴だが、透明な歌声のkoyabin(Vo&G)と、ざらついた声で叫ぶ杉森ジャック(Vo&G)とでは方向性がずいぶん違う。ギタープレイも然りで、「このリフにそんなフレーズ当てるの?」「シンプルなメロディで聴かせると思ったら突然ノイズ?」みたいな、合っているのか合っていないのかわからない展開が次々と飛び出してくる。うなる不協和音。調和を切り裂くエレキギター。ヒリヒリした爆音のぶつかり合いと、それをまだスッキリと整理できていないむさ苦しさ。ドキドキした。何年ぶりかわからないこの感覚は、ナンバーガールの登場時に限りなく近い。

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杉森ジャック(Vo&G)/撮影=東美樹(miki azuma)

 違いがあるとすれば、「どこまでもソリッド!」に徹していたギタリスト・田渕ひさ子のポジションに、もっとロマンティックな情緒があることか。一曲目の「GALAXY」で先にボーカルを取るのはkoyabinだが、彼のメロディと歌声は、繊細さや切なさ、優しさや憂いなどを表現していくものだ。UKロック的と言ってもいい。そしてBメロから歌を引き継ぐ杉森は、ざらついた攻撃性と剥き出しの熱量を叩きつける、いわばUSオルタナ/初期エモの流れを汲むシンガー。この二人がサビでハーモニーを聴かせることで、歌は大きく膨らみ、どこかポップな親和性が生まれてくる。これはTHIS IS JAPANだけの個性であり強みだろう。

 「最初はナンバーガールで、そこからピクシーズ、フガジ、キャップン・ジャズあたりに影響を受けた」と杉森ジャック。対してkoyabinは「どちらかといえばUKニューウェイヴ。エコバニ、ジャパンとデヴィッド・シルヴィアン、ラブ・アンド・ロケッツなど」がルーツらしい。まったく、洋楽離れの世代においては絶滅危惧種のような感性だ。ゆえに、大学在学中に結成した2011年から現在まで、とにかく対バンに困ってきたことは想像に難くない。どこに行っても4つ打ちのダンスロック。BPMを上げ続ける同世代バンドの中で、彼らはこんなにも無骨なディストーションを鳴らしていたのかと笑い出したくなる。だが、5年間ずっと妥協はしなかった。ナンバーガールの名前が実際に出てくる「Super Enugh, HyperYoung」では〈手拍子なんていらないよ ラストシーンはいつか憧れたヒーロー〉と歌い、挙句、「カンタンなビートにしなきゃ踊れないのか」と真正面から挑発するタイトルの曲まで作ってしまう。あぁ、これが東京のバンドだと強く思う。

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水元(Ba)/撮影=東美樹(miki azuma)

 地方都市のオルタナティヴは、よくも悪くも「売れる方法」や「ジャンルのマナー」をまったく知らないことで、勘違い的に面白くなることが多い。またバンド人口が少ないぶん対バンが同じになりがちで、飽きを回避するためにも「あいつらをいかに出し抜くか」と切磋琢磨しあい、結果的に奇妙なオリジナルが生まれるケースもある。無意識的にオルタナが育ちやすい土壌なのだ。

 しかし東京で結成されたTHIS IS JAPANは、ダンスロック・ブームの中で意識的にオルタナを選びとり、孤立無援の状態でさらに強い自我を育てていく。そうせざるを得ないくらい、都内のライブハウスは4つ打ちで溢れ返っていたのだ。無意識でも天然でもない、叩き上げのオルタナティヴ・ロック。ナンバーガールがきっかけならシーンのド真ん中に切り込んでいく覚悟は当然備わっているだろう。もちろん知名度や人気はまだまだのレベルだが、「ここで終わるわけねぇだろ」というギラついた野心は、杉森の声と唱法と目つきから痛いくらいに伝わってきた。いや、笑えるくらいに、と言ったほうがいいか。私はこんなバンドをずっと待っていたのだ。

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this is かわむら(Dr)/撮影=東美樹(miki azuma)

 なお、このライブは、今月3日に発売された新作、2枚目の全国流通盤となる『DISTORTION』の発売記念アウトストア・イベント。今までのひねくれすぎたアレンジを排し、より生々しくストレートな衝動を閉じ込めたCDの帯には「ストイック✕シリアス✕コミカル✕ロマンス✕エモーショナル✕オルタナティブ=THIS IS JAPAN」という手書きの文字がある。異論なし。東京発信の、主流とは異なるダイナミズムの塊。戻るべき場所なんて最初からないのだから、ここからシーンをひっくり返していくしかないだろう。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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