パスピエが語る、2016年以降の表現モード「ビートに新しいエッセンスを入れたい」

パスピエが見せる新しい進化

「人生の4分の1くらいは“春”のような時期」(大胡田なつき)

パスピエ「ハイパーリアリスト」

ーー「永すぎた春」にもバンドとしての肉体性は存分に発揮されていると思います。最初にこの曲を聴いたのはライブだったのですが、とにかくリズムのアレンジが強烈で。

成田:うん、それがこの曲のキモなんです。いまって、いろんなジャンルの音楽があるじゃないですか。毎週たくさんのアーティストがリリースして、いろんな音楽が溢れてますけど、ビートの幅に関してはすごく限定されていると思っていて。そこに新しいエッセンスを入れたいというのは、ずっと思ってることなんですよね。たとえば“4つ打ち”って結局、1小節のなかでキックが4つ鳴ってるっていうだけですからね。そこに新たな解釈を加えることで、「永すぎた春」のリズムになったというか。

ーーもう少し具体的に教えてもらえますか?

成田:これは2〜3年前から考えているんですけど、民族性というものに興味を持ってるんですよね。和のテイストを取り入れたのも、日本人がやるからこそおもしろい音楽って絶対あるだろうなと思ったのがきっかけなので。海外を見ていても、ポップスのシーンで活躍するアフリカ系のシンガーも増えているし、ラッパーにしても“どこの国の出身だろう?”という音楽的な訛りを感じることもあって。僕が好きなアーティストで、ローラ・マヴーラという人がいるんですけど、彼女の音楽に感化されて作ったのが「とおりゃんせ」だったりして。そういう影響は「永すぎた春」にも出てるかもしれないですね。

ーーローラ・マヴーラはクラシックの素養を持っているアーティストですよね。ライブを観るとブラックミュージックと現代音楽が混ざっているような感覚もあって。

成田:でも、ちゃんとポップスになってるんですよ。もともとは僕もクラシックの出身だし、純度100%のポップスになれない部分もあって。そこ(クラシックとポップ)をつなぐ道が見つけられたらいいなって、ずっと思ってるんですけどね。

ーーなるほど。「永すぎた春」の歌詞からも、サウンドと同様、生々しい感情が伝わってきました。

大胡田:誰にでもあり得る内容ですよね。いままでは“雨が降って、町が水没して、船でどこかに行って”みたいな歌詞がけっこう多かったんですけど(笑)、「永すぎた春」の歌詞はいろんな人、いろんなシチュエーションに当てはまるんじゃないかなって。

ーー大胡田さん自身の体験というより、幅広いリスナーが共感できる歌詞を意識したと?

大胡田:“2000年代を生きてる人には当てはまる”という感じかな。自分の体験というわけではないけど、いま生きている人ならきっとわかるんじゃないかなと。

ーー<等身大の自分なんてどこにもいなかった>というフレーズもありますが、延々と自分探しをしている、もしくは思春期をこじらせたまま30代になってしまう人も多そうですからね。

大胡田:そうかも(笑)。何て言うのかな……“春”というのは人によっては青春だったり、学生時代の“あの人が好き”っていう浮いた感じだったりすると思うんですけど、人生の4分の1くらいはそういう時期なのかなって思っていて。その時期が過ぎると“儚いから美しい”と思っていたものが“いや、美しいから儚いんだな”みたいに考え方が逆になることもあるだろうなって。そういうことを自然に伝えられる歌詞にしたかったんですよね。まあ、ちょっと皮肉も入ってますけど。

——すごく大きなテーマですよね、それは。一方の「ハイパーリアリスト」はライブが予感できるというか、現在のパスピエのバンド感がダイレクトに出ている曲だなと。

成田:楽曲の構成はわかりやすいポップスなんですけど、細かい部分にヒネくれたエッセンスをちりばめられたと思っていて。あとは「歌詞が乗ったときにどういうバケ方をするのかな?」という感じだったんですが、大胡田の書いた歌詞がすごくストレートに受け取られるような内容だったから、バンドの音もさらに骨太にしたほうがいいなと思って。

大胡田:「永すぎた春」の歌詞はいろいろとこだわったので、「ハイパーリアリスト」は“ここにあるリアル”というものに寄せようと思って。特にヘンなことも歌ってないですからね。写真的に絵を描く手法を“ハイパーリアリズム”っていうんですけど、私たちがやっていることって、それに近いと思うんです。私たちはパスピエとして世の中に音を届けたり、歌ったりしてるわけで、それは“限りなく本物に近い、違うもの”じゃないかなって。

ーー人間は現実をそのまま捉えることができないという話もありますからね。

大胡田:脳の話ですよね? クオリアとか。

ーーそうですね。あと“じつは我々はみんな違うものを見ている”っていうことだったり。

大胡田:考えますよね、それ。こうやって喋っているつもりでも、それは私がそう思ってるだけで、じつはすごい廃墟にいるんじゃないか、とか……。

成田:すごい(笑)。

大胡田:並行世界とか、そういうことを考えるのは楽しいじゃないですか。歌詞や曲を作るって、そういうことかもしれないなって思うんですよ。現実ではないものを作っているわけだから。

ーー3曲目の「REM」は、午前3時の眠れない状況を描いた歌。これは大胡田さんの体験ですか?

大胡田:うん、これはけっこう自分の話ですね。「3日後までにジャケットを仕上げてください」「わかりました」というときの午前3時の気持ちというか(笑)。そういう時間に歌詞を書くことはあまりないんですけど、絵を塗ったり、作業に近いことをやっていることはあるので。リードの2曲はしっかり整っているから、カップリングはもうちょっと気楽というか、いい感じに力を抜けて書こうかなって。バンドの音もかなりロックだし。

成田:MGMTの「Kids」のイントロをパスピエなりのロックにしてみようと思ったのが、この曲のスタートなんですよ。

ーーライブ映えしそうじゃないですか、この曲。

成田:うん、よろこんでくれる人は多いと思います。ただ、なにせカップリング曲ですから、どういう立ち位置になるか……。“知る人ぞ知る”みたいなおもしろさもあっていいと思ってるんですけどね。

ーーそして今回のシングルには、倉橋ヨエコさんの「今日も雨」のカバーも収録。まさに知る人ぞ知るシンガーソングライターだと思いますが、以前から聴いてたんですか?

成田:うん、聴いてましたね。とにかく声がすごくて、1回聴いたら忘れないじゃないですか。

大胡田:特に私とドラムのやお(たくや)さんがヨエコさん好きなんです。まず、歌い方がすごく潔いなって思うんですよ。歌詞とメロディの整合性がとれてなかったりするけど、すべてを包み隠さず出しているし、そのなかに独特の表現があって。自分から出て来るものがそのまま音と言葉と声になっているのはすごいなって思うし、憧れますね。「今日も雨」はいちばんポップな曲だと思うし、改めて聴いてホントにいい曲だなって

——もうひとつ、パスピエの主催イベント『印象』シリーズについても聞かせてもらえますか? 6月に行われた『印象E』にはandrop(大阪・なんばHatch)、フジファブリック(名古屋・Zepp Nagoya)、UNISON SQUARE GARDEN(東京・新木場STUDIO COAST)が参加しましたが、このイベントは一旦止めるそうですね。

成田:そうなんです。『印象』シリーズには自分たちが聴いていたり、影響を受けたバンドだったり、活動のなかで知り合ったバンドに出演してもらっていたんですが、もともと僕らはそんなに社交的でもないし、出演してくれるバンド、僕ら自身、お客さんといい関係を作っていくためには、別のベクトルが必要かなと思って。最近はビッグネーム同士の対バンイベントも増えていますけど、パスピエにしか出来ないこともあるだろうし。バンドという枠に捉われなくてもいいと思うし、然るべきタイミングで、いいご縁に恵まれたらという感じですね。

ーーやはり大きな変化の時期なんでしょうね、いまのパスピエは。顔出しのこともそうだけど、表現の幅も広がっていきそうだし。

大胡田:そうなんですよね。12月にホールツアーがありますけど、いろいろと新しい見せ方を考えないといけないし。目で見て楽しめるライブにしたいんですよね。

成田:自分たちが身体を動かして演奏するというのは、これからも軸になっていくでしょうから。その比重はさらに重くなっていくと思うし。

ーー2周目に入ったパスピエの新しい音楽にも期待してます。

成田:いま、まさに“制作中”なんです(笑)。いろいろと考えながら作ってるので、期待していてほしいですね。

(取材・文=森朋之)

■リリース情報
『永すぎた春/ハイパーリアリスト』
発売:2016年7月27日(水)
初回限定盤(スペシャルパッケージ盤)¥1,111+税
通常盤¥1,000+税
<収録曲>
1.永すぎた春
2.ハイパーリアリスト
3.REM
4.今日も雨(倉橋ヨエコのカバー)

■ライブ情報
『パスピエ 5th Anniversary Hall Tour』
2016年12月4日(日)愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホール
開場 17:30/開演 18:00

2016年12月16日(金)大阪・オリックス劇場
開場 18:00/開演 18:30

2016年12月22日(木)東京・中野サンプラザ
開場 18:00/開演 18:30

全席指定¥4,800(消費税込)※小学生以上チケット必要
一般発売日:10月8日(土)

パスピエオフィシャルサイト「P.S.P.E」

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