LUNA SEAの“ROSIER”はまさに〈VISUAL SHOCK〉だった 市川哲史×藤谷千明〈V系〉対談

市川:ちなみに藤谷さん的にはその、〈新たな夜明け前〉みたいなV系シーンとどう付き合ってた のかしら。

藤谷:何て言うのかな......自分の青春時代だったというか、20代前半で社会人ですしある程度はお金も遣えるし体力もあるから。気になったバンドはすぐ見に行けましたし――それもあってあの時期がいちばん、玉石混交かもしれないけどゴチャゴチャしてて愉しかった印象があります。

市川:それこそ何でもありだったわけだ。でもやっぱり、タテ社会のシステムを維持できなくなれば、ヤンキー色は自然と消滅するよね。

藤谷:そもそもライヴハウスが、危ない場所ではなくなりましたから。昔は制服姿で行こうものなら補導されるのがオチのような世界だったじゃないですか。でもTVや雑誌でインディーズ・バンドを好きになったら、誰だって実物を観に行きたくなるじゃないですか! しかもこの10年で禁煙のライヴハウスも凄く増えましたし、最近ではあえて、ドン・キホーテなどで売ってるセーラー服を着てライヴに行くような子たちもいるんですよ(失笑)。だからそういう感じで、どんどん部活になっていったんだと思います。蟹めんまさんも、「バンギャル活動は私にとっては部活だった」とおっしゃってるじゃないですか。

市川:あー腑に落ちたぞ。まずバンド自体が、部活の延長だもんね。

藤谷:最近取材したとある15年選手の中堅バンドも、「00年代初頭の高田馬場AREAは部活みたいだったな」と言ってたんですよ。同年代のV系バンドたちが毎週のようにライヴ演ってるから、「あいつらはああしてるから、俺たちはこうしようぜ」とお互いを意識しながら。

市川:そっか。00年代以降は軽音楽部のノリなんだな、別にいがみ合うわけではなく皆でワイワイ愉しんでるような。考えてみれば私の学生時代でも軽音楽部って、特にタテ社会色が希薄なサークルだったし。でもって各バンドの音楽性も各々の趣味の延長だったりするから、同じサークルなのにメタルも青春パンクもフォークも歌謡曲もいるという。

藤谷:ああ、なるほど。

市川:すると部員は皆、普通の一般人なわけだ。やっぱりヤンキーは部活なんかしないもんねえ?
藤谷:ファンとメンバーの年齢も近いし、いま思えばたしかに部活っぽい気がします。

市川:うん。だからV系シーン全体で、文系化が急激に進行しちゃったんだろうな。

藤谷:ちなみに00年前後に、Raphaelというバンドの、ファンクラブ名が《聖天使学院天々団》で、実際にスクールバッグやジャージも作ってましたね。

市川:……。

藤谷:彼ら自身も当時高校生でメジャー・デビューして武道館ライヴも演った超鳴り物入りのバンドで、ファン重視の姿勢を凄く出してたから同世代の支持を得て大人気でした。そういう意味ではRaphaelの頃から潮目が――ファンの子もバンドの子も皆、「V系が好き♡」と明るく言い始めました。かつて清春やhydeも「DEAD ENDに影響を受けて」と自分のルーツを明かしてはいましたけど、この頃になると若手のバンドは皆「自分のルーツはV系」と公言するようになってましたね。

市川:それもまた学生っぽいな。ちなみにこの当時――オールドスクール勢が一段落しちゃった後の00年代に、V系を牽引したバンドはどのあたりになるのかしら。いくら部活とはいえ、皆が皆横一列ってわけではないでしょ?

藤谷:やっぱりthe GazettEとSIDじゃないですか、どちらも東京ドームで演っているので。それまでは《DIR EN GREYとPIERROTとJanne Da Arcの時代》だったのではないでしょうか。でも DIRはだんだんV系という括りから離れていきましたし、PIERROTは06年に一度解散してしまいましたから、それ以降は《SIDとthe GazettEの時代》だと思います。

市川:その孤軍奮闘が残念ながら一般世間に届かなかったのは、〈音楽ビジネス氷河期〉の余波も大きいだろうけど、共通して言えるのは皆凄く真面目に誠実に歪んでるというか――。

藤谷:「真面目にV系やってます」ということでしょうか?

市川:そうそう、「ちゃんとV系してる」というか。もちろん人としては彼らの方が立派だけれども、ちゃんとしてない連中の破壊力に較べると地味なんだよね。って酷いオチだな(失笑)。

藤谷:正直な話......〈ネオV系〉と呼ばれてたシドやthe GazettEがまだメジャー・デビュー前だった頃が、V系にとっていちばん暗い時期だったかもしれません。

市川:ここらへんV系の本質論に踏み込んじゃうけども――07年12月のLUNA SEA一夜限りの再結成ライヴ《One Night Déjàvu》と翌08年3月のX再結成ライヴ《攻撃再開》の音楽的完成度を較べると、LUNA SEAの方がもう圧倒的に素晴らしかったわけ。

藤谷:《One Night Déjàvu》は本当にもう最高でしたよ! あれだけのタイムラグがあった中、あんなにきちんとしたライヴを観せてくれましたからね……(遠目笑)。


市川:ただしどんなにLUNA SEAの方が完成度が高くてちゃんとしていても、残念ながらXの方が観てて面白いんだよねこれが。

藤谷:〈音楽性〉よりも〈事件性〉、という意味ですよね?

市川:いつ何が起こるかわからない〈非常識エンタテインメント〉には勝てないよ、やっぱ。LUNA SEAですら霞んじゃうんだから、真面目な〈若手〉が太刀打ちできるわけがない。よく考えたら単に邪道なだけなんだけども(失笑)。

※まだまだ続く対談は、書籍『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』にて。

■書籍情報
『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』
価格:3,000円(税込価格:3,240円)
判型:四六判
総頁数:584頁
発売:8月5日
発行/発売:垣内出版

予約はこちらから

【目次】

●プロローグもどき/《ルナフェス》という名の到達点

第Ⅰ章 私が〈V系〉だった頃(21世紀version)
§1 XとLUNA SEAの〈再結成〉で考えた、いろんなこと
§2 生き残った者たちの、それぞれの〈正義〉
§3 キリトが〈社会派〉であり続ける理由

第Ⅱ章 〈V系〉がヤンキー文化だった頃
§1 ハレだ祭りだヤンキーだ〈V系オールドスクール〉再考
§2 YOSHIKI伝説フォーエバー

第Ⅲ章 〈V系〉がオタク文化になった頃
§1 ゴールデンボンバー売れっ子大作戦
§2 鬼龍院翔も〈V系カリスマ〉である、たぶん
§3 〈サブカルとしてのV系〉の知らない世界
§4 或るバンギャルの一生

第Ⅳ章 私が〈hide〉と呑み倒してた日々
§1 hideと私と愉快な〈元・ロック少年〉たち
§2 すべての後輩たちの《hide兄ぃ(J談)》
§3 〈好奇心〉という名のクリエイティヴィティー
§4 hideと小山田圭吾

●エピローグもどき/ももクロベビメタエグザイル三題囃
●年表

【内容紹介】
ゴールデンボンバーは〈V系〉の最終進化系だったーー? 80年代半ばの黎明期から約30年、日本特有の音楽カルチャー〈V系〉とともに歩んできた音楽評論家・市川哲史の集大成がここに完成。X JAPAN、LUNA SEA、ラルクアンシエル、GLAY、PIERROT、Acid Black Cherry……世界に誇る一大文化を築いてきた彼らの肉声を振り返りながら、ヤンキーからオタクへと受け継がれた“過剰なる美意識”の正体に迫る。ゴールデンボンバー・鬼龍院翔の録り下ろしロング・インタビューほか、狂乱のルナフェス・レポ、YOSHIKI伝説、次世代V系ライターとのネオV系考察、そして天国のhideに捧ぐ著者入魂のエッセイまで、〈V系〉悲喜交々の歴史を愛と笑いで書き飛ばした怒涛の584頁!

【著者プロフィール】
市川哲史 いちかわ・てつし
1961年岡山県生。音楽評論家。予備校生時代の80年より現在に至るまで、『ロッキングオン』『同ジャパン』『音楽と人』『オリスタ』『日経エンタテインメント!』などを主戦場に書きまくってきたが、根が正直なため出禁多数。守備範囲は音楽も超えて∞。16年は絶好調なのか、洋楽本とプログレ本も近刊予定。主な著書は『X-PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME VISUAL SHOCK-』『BT8992』『ART OF LIFE』『BJC』『キリトの偽装音楽業界』『オレンジレンジのチーズバタージューシーメー』『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』『私も「ヴィジュアル系」だった頃。』『さよなら「ヴィジュアル系」-紅に染まったSLAVEたち-』『ウルトラ怪獣名鑑戯画報』『遺留捜査』『遺留捜査2』など。

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