andropはこうして“素顔”を見せるようになったーー初のベスト盤を機に、7年の軌跡を振り返る

androp、7年の軌跡を振り返る

「Voice」(2013年)

 前述のように、andropはデビュー当時からそのアートフォームが定まっており、非常にコンセプチュアルなバンドであった。しかし、そこに変化の兆しが表れたのが、2013年8月にリリースした「Voice」である。

 同曲は、2013年に開催された初のホールツアー『one-man live tour "one and zero"』後に制作された。心拍数を上昇させていくようなリズムアレンジや、生き生きと跳ねるビート、幾度となく繰り返されるスタジアム級のコーラスワークには、そのライブの空気感が隅々まで入り込んでいる。今でも多くのツアーやフェスで演奏され、コーラス部分では何千人、何万人の声がひとつになって響き渡る。<どこにも代わりのいない君の 生まれた声で歌ってよ>という直接的な呼びかけは、よりフィジカルにリスナーと共鳴したいという切なる想いの結晶である。この「Voice」をきっかけに、andropは生身のコミュニケーションを強く望むことで、自分たちの表現をどんどんアップデートさせていった。

androp「Voice」

「Missing」(2013年)

 「Voice」に続くシングル曲として、3ヶ月後にリリースされた「Missing」は、サビ部分のファルセットが美しいバラード曲だ。開放的なマインドのもと新しい扉を開けた「Voice」から一転、「Missing」は音数が少ないシンプルなサウンドで、内澤が近しい大切な人を亡くした時の想いを書き記した、とても親密な雰囲気をまとった曲になっている。

 andropの楽曲で、これほど具体的な喪失を歌った曲は珍しい。それは、彼ら自身が、ポップミュージックの理想的なあり方として“普遍であること”を求め、メンバー個人のエゴを表に出さないことで、その普遍性を濁らせるものを徹底的に排除してきたからだ。そんなandropにとって、「Missing」は初めてパーソナルな経験と心情と向き合い、その胸の内を包み隠さず歌った曲である。匿名性や神秘性というベールを一枚ずつ脱ぎ、自分たちの素顔を見せることを恐れずにダイレクトに聞き手とつながろうとするタフさは、この頃から強固なものとなっていった。

androp「Missing」

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