ライブハウス・バンドが行う「全都道府県ツアー」の実態ーー兵庫慎司がフラカンを例に考える

ライブハウスバンド「全都道府県ツアー」の実態

 と、ついどうでもいいことを書いてしまったが、ただし。

 昔よりもそのハードルが下がったとはいえ、こうした全都道府県ツアーは、みんなができることではない。あたりまえだが、それなりの動員が見込めるか、見込めないならそれなりの赤字を背負える財力があるか、そのどちらかでないと不可能だ。

 さらに言うなら、「ツアーで生活の糧を得ていくバンドマン生活」というもの自体が、そもそもそうだ。メジャーからドロップアウトしたが、バンドを続ける道を選び、メンバー4人だけでワゴン1台で日本中を回るところから再スタートしたーーというのは、フラワーカンパニーズのヒストリーを紹介する時に、苦労話として語られがちだ(本人たちがというよりも、周囲が)。レコード会社とマネージメント、両方の契約が切れて給料もなくなったが、そんなどん底から自分たちの力だけで再スタートしたのです、みたいな美談として捉えられることも多い。というか、僕も彼らのことをプロモーションする際に、そういうことを売りにしてきた側のひとりだが、しかし。

 フラカンと同じようにメジャーからドロップアウトし、フラカンと同じようにそれでもバンドを続ける道を選んだが、そこまでライブどっぷりの活動はできず、生活のためにメンバーそれぞれ働き始めたりして、だんだん活動が止まっていくーーというバンドは多い。そんな彼らに言わせると、「フラカンは人気があったからあれができた」のだそうだ。

 人気あった? 当時のフラカンが? メジャーをクビになって東京での動員が全盛期の10分の1、約250人にまで落ち込んだバンドが?

 と、つい言いたくなるが、彼ら曰く、そんなに細かく地方を回れるという事実が、そのバンドにある程度の人気があるということを示している、と。

 ワゴン1台ツアー生活を始めた頃のフラカンは、地方ではそれこそ15人とか20人しか入らない、というようなことがザラにあったそうだが、それでもそんな地方は数カ所まとめて行くようにしたり、大都市の動員でそれを補填したりして、ツアーを続けた。

 動員が少ない、赤字になる、じゃあ行かない、ということにすると、それでなくても弱っている地方での認知がさらに弱る一方になり、先細りしていくことはあきらかだ。とにかくなんとかしてなるべく細かく地方を回り続ける。どうしても厳しいところは何年かはあきらめることもあるが、ちょっとでも状況が好転してきたら行く。ということを何年も何年も続け、やがて2008年にメジャー復帰し、さらにそこから同様の活動を続けた末に、2016年に全都道府県ツアーをやっているのが今のフラカンだ、と言える。

 というような粘り強い活動をすること自体が、そもそも難しいのだそうだ、他のバンドは。地方では入らないからだんだん行かなくなる。行かなければ行かない分だけ、さらに知名度や動員力は下がる。バンド活動がだんだんゆるやかになる。メンバー、バイトとかで働き始める。さらに活動がしづらくなる──という負のスパイラルに、はまっていくのだという。そりゃまあそうなるよなあ、と思う。

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 フラカンのリーダーでありマネージャーであり社長であるグレートマエカワは、当時のことをふり返ると、よく「とにかくメンバーがバイトせんですむようにすることを考えた。バイトし始めたら終わりだと思った」と言う。その負のスパイラルを、身近で何度も見てきたからだと思う。

 なお、メンバーに家族がいたりすると、そのスパイラルの速度はますます早まるが、当時のフラカンは、既婚のメンバーはいたが子持ちのメンバーはいなかった(子供はいるが離婚した奥さんが連れて行っちゃったメンバーはいたが)、というのも大きいだろう。ただ、それも「たまたまいなかった」のではないだろう。当時はバンドを続けるためにそのような人生を選択した、ということだ、おそらく。

 というわけで、現在に至る。悲願の日本武道館が大成功に終わった翌年からも、両足をしっかりライブハウス・シーンにつけて、フラカンは活動していくのでした。めでたしめでたしーーとなればいいが、当然ながら、そんなシンプルな話ではない。

 フラカンのこの全都道府県ワンマンツアー、「初の」という宣伝文句がついている。対バン等も込みで1年間で全都道府県でライブをやったことは過去にもあるが、すべてワンマンで回るのはこれが初めて、ということだ。つまり、そんなふうに、くどくしつこく根気よく、十数年日本中を回り続けていても、ワンマンで全都道府県を回るのは結成27年・デビュー21年にして初めてであると。それくらいタフなことなわけだ、DIYで運営しているバンドにとって、全都道府県ツアーというのは。

 当然だが、動員も、いいところもあればそうでないところもある。その中で特にシビアなのは、おそらく沖縄だ。フラカン、別に沖縄で入らなくはないが、というかバンドの知名度などを考えるとそのわりに入っている方だと言っていいと思うが、沖縄の場合、普段のようにワゴン1台というわけにはいかない。飛行機を使わざるを得ない。船は時間がかかりすぎるので行程的に論外。

 ツアーで沖縄へ一回行くと、フラカンの場合、メンバー4人とローディーとPA、6人分の航空機代と、ライブ前日・当日の2泊分のホテル代がかかる。これでも他のバンドと比べると極端に少ない頭数だが、ワゴン1台で一回遠征するたびに数カ所でライブを行って東京に戻ってくる通常のツアーと比べると、あきらかに経済効率が悪い。

 相当な人数を入れないとリクープするのは大変だ。しかし、それでも、2013年、2015年、2016年とツアーに沖縄を組み込み、那覇・桜坂セントラルでワンマンをやっている。先に書いたように、入らないからといって撤退すると、そこまでになってしまうからだ。20人くらいだったらさすがのフラカンでもあきらめるかもしれないが、毎回100人前後は入っているわけなので。沖縄に行かなくなる、ということは、その100人前後がいなくなる、ということにつながるわけだ。

 そんなにフラカンの話ばかり書かれても知らないよ。と言われそうだが、ここまでの話、「すごく売れてるわけではないバンドのファンである人」なら、共有できるのではないかと思う。

 多くのバンドが、これに似たりよったりな状況の中、いろんな思いを抱えながら、日々戦い続けているのです。という話でした。

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