桑田佳祐「ヨシ子さん」に見る音楽的先鋭性 グローバルなヒット曲との共通項を読む

 ニューシングルには、この「ヨシ子さん」を含めて4曲の新曲が収録されている。どの曲も大型タイアップを獲得している曲だ。「ヨシ子さん」はWOWOW開局25周年CMソング。「大河の一滴」はUCC BLACK無糖のCMソング。「愛のプレリュード」はJTBのCMソング。そして「百万本の赤い薔薇」はフジテレビ系「ユアタイム~あなたの時間~」テーマソング。

 桑田佳祐クラスの大物になると、一枚のシングルに複数のタイアップ曲が収録されることも珍しくない。その時にどうするかで、アーティストやスタッフチームの意志や戦略が垣間見えることになる。こういった場合に最も多いのは、両A面、もしくはトリプルA面の表記にする例だ。たとえば桑田佳祐の前作シングル『Yin Yang/涙をぶっとばせ!!/おいしい秘密』や前々作『明日へのマーチ/Let’s try again~kuwata keisuke ver.~/ハダカ DE 音頭 ~祭りだ!! Naked~』はそういうタイプの扱いだった。

 タイアップ曲4曲を収録したシングルに楽曲名とは別のタイトルをつけ、ミニアルバム的なボリューム感を持った一枚としてリリースする例もある。たとえばGLAYの『G4』シリーズや、Mr.Childrenの『四次元 Four Dimensions』がこれにあたる。

 しかし今回、桑田佳祐はあくまで「ヨシ子さん」を表題に、「大河の一滴」「愛のプレリュード」「百万本の赤い薔薇」をカップリング扱いにした。どれもクオリティの高い曲だし、桑田佳祐に求められる歌謡性とポピュラリティを兼ね備えた曲だ。

 でも、それを差し置いて「ヨシ子さん」をフィーチャーした。その判断は正しかったと思う。同年代の中高年には共感を、そして若い世代にはキャッチーなフックを持って響くのがこの曲だ。前出のインタビューで「狙ってたらヒット曲はできない」と語っていた桑田佳祐だが、かなり周到に狙いすまして作られた一曲なのではないだろうか。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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