島爺が語る、初作品の挑戦と覚悟 「歌い手としての人生が終わってもいい」

島爺が語る、初作品の挑戦と覚悟

「一曲入魂のスピリッツというのは「島爺」にとっても欠かせない」

160622_symag_2.jpg

 

ーー動画の投稿を重ねるなかで“趣味”の範疇を大きく超えるような再生数、人気を獲得していきます。ご自身はブログで「“アンチアイドル歌い手”のようにカウンター的な存在として扱われたから、という部分が大きいのでは」とも分析されていましたが、知名度が上がっていくことをどう捉えていたのでしょうか。

島爺:再生数が大きくなっていくなかで、正直“マズい!”と思っていました。“このままやったら、名前が知れてしまう”と(笑)。それで思いついたのが、あまりランキングに上っていないような曲を歌うことだったんです。当時は“歌い手で有名になるには、人気ボカロPの新曲を投稿後一日で歌う!”みたいなところがあったので、逆のことをしたら有名になることはないだろうと(笑)。

ーー実際に“マズい”と思い始めたのは、どれくらいの時期ですか?

島爺:「少年少女カメレオンシンプトム」(2012年05月11日投稿)くらいですね。そこから勢いが変わったんです。

ーーなるほど。そこから中毒性の高いファンクチューン「ラットは死んだ」(P.I.N.A)、今作にも収録された人気ネットラッパーVacon氏の処女作「HATED JOHN」と、“知られざる良曲”を投稿していきますが、さらに勢いがついてしまいましたね(笑)。ちなみに、楽曲はどのように探しているのでしょうか?

島爺:Twitterでフォロー返しをしていて、そうすると、タイムラインにオススメの楽曲がズラッと並ぶんですよね。僕をフォローしてくださる方たちなので、ボカロ曲のツイートも多くて。そこで偶然知って、歌った曲もたくさんあるんですよ。リクエストも募集していますし、実は大変な思いをして“知られていない曲”を探している、というわけではないんです。『冥土ノ土産』の収録曲で言えば、「鉄の弦の感情。」などは(制作者の)Haniwaさんの別の楽曲をリクエストしていただいたことがきっかけですね。

ーー「鉄の弦の感情。」は今作でも最も尖ったロック曲で、シャウトに近い高音が魅力的です。Haniwa氏はボカロを使ったポエトリー・リーディングなど、面白い取り組みをしているクリエイターですね。

島爺:そうなんですよ。歌う機会を伺っていたのですが、このCD化のタイミングで行こうと。この才能はもっと広く知れ渡ってもらわらないと困ります(笑)。

ーーネットを舞台に活動するシンガーとして、島爺さんの実力は広く知られており、これまでもメジャー進出のオファーは少なからずあったと思います。ブログでも丁寧に説明されていますが、このタイミングでリリースを決めた理由をあらためて教えてもらえますか。

島爺:確かに何度かオファーがあったのですが、CDを出したり、デビューしたりということが目的ではなかったので、お断りしてきました。今回はワーナーさんのしつこさに負けたというか(笑)。また、CDをリリースした後のライブなど、いわゆるアーティスト活動について「白紙でもいい。まずは制作だけに集中してもらえれば」と言っていただけたのも大きかったですね。「歌ってみた」動画は、メジャー作品と違って音源は出しても、当然、その後ライブをするかどうかが決まっていない。僕はそれがとても面白いと思っていて。

ーーなるほど。録音芸術としての音楽というか。

島爺:そうなんですよ。例えば一曲通して声が続かないほど声を張ることもできるし、ライブを想定していないからこそ突き詰められる部分があって。そういう一曲入魂のスピリッツというのは「島爺」にとっても欠かせないもので、今後生でステージに立つかどうかは未定ですが、全曲再現するライブをする、というのはなかなか難しいです。

ーーさて、今作『冥土ノ土産』についてもじっくり伺っていきたいと思います。ニコニコ動画で約470万再生という大ヒットを記録している「ブリキノダンス」(日向電工)を始め、これまで動画として投稿された人気曲はもちろん、一方で新録曲が多く、「チルドレンレコード」(じん)、「Calc.」(ジミーサムP)、「初音ミクの消失」(cosMo@暴走P)など、意外感のある有名曲が収録されているのも印象的でした。

島爺:『冥土ノ土産』というタイトル通り、この作品で僕の歌い手としての人生が終わってもいい、という意志のもとで自然にこのラインナップがそろいました。これまでは歌ってこなかったよく知られている曲も入っていますが、普通に歌いたかったんですよ(笑)。

ーーなるほど。メジャーデビューとなれば、もう“身バレ”を怖れる必要もない(笑)。

島爺:そういう意味では、曲を選ぶのもよりどりみどりでしたね(笑)。「Calc.」なんかは僕には少し爽やかすぎるかなとも思ったんですが、リクエストも多くて、歌ってみたら意外と気持ちよかったです。歌ってみて気づくことも多いですし、自分の感覚をあまり信用したらあかん、と思います。

ーー代表曲にもなっている「ブリキノダンス」についても、あらためて聞かせてください。インド神話を思わせる暗号的な歌詞が印象的な、中毒性の高い一曲ですが、あらためて島爺さんにとってどんな作品ですか。

島爺:この曲にここまで連れて来ていただいたと思っているので、頭が上がらないですね。ベタな話ですけど「名刺代わり」というか、このアルバムを作るきっかけにもなった曲なので、その物語の1曲目は「ブリキノダンス」から始めないといかんのじゃないか、と思いました。

ーー今回はご自身でミックスも手がけていますね。ブログでは「大好きな曲のパラ音源(ミックス前の楽器毎のファイル)を聴けるのがうれしかった」とも書かれていましたが、ミックスしていて特に楽しかった曲はありますか?

島爺:「真夜中と混線少年」(CapsLack)は僕としては珍しいゆっくりした曲なので、新鮮で楽しかったですね。歌い方としてはウィスパーなんですが、一口にウィスパーと言っても幅があるので、しっくり来るまで録り直しました。サビの部分にも、コーラスとしてウィスパーな声を重ねているんですけど、そういう工夫をして、感情が沈み込んでいる時の感覚をどう表現すればいいか、かなり考えましたね。「undo:redo」(砂粒)という曲も、似た意味で楽しかったです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる