2016年、バンドサウンドはどう変わったか? D.A.N.、雨のパレード、The fin.の新作をもとに検証

 では、ここからはD.A.N.に話を絞ることにしよう。まず彼らの編成は、ボーカル、ギター、シンセの櫻木大悟、ベースの市川仁也、ドラムの川上輝という正式メンバー3人に、スティールパン、パッド、コーラスを担当するサポートメンバーの小林うてなを加えた4人編成。最初に挙げた3組の中では、テクノやハウスなどのダンスミュージックと最も接点が深く、アンサンブルの肝となっているのはやはり反復を基本としたリズム隊の存在だ。ベースとドラムが少ない音数でグルーヴを生み出し、そこにさまざまなうわものや櫻木のソウルフルな歌唱が乗ることによって、サイケデリックな空間を生み出している。

 アルバムの楽曲においては、曲ごとにベースとドラムが主導権を取り合っているが、まず耳に残るのはベースの存在。イントロで広がるシンセを突き破るかのような、太い音色がインパクト大の「Zidane」、スティールパンやパッドなど様々な音色が使われながらも、やはりベースが主役に位置し、2番以降のダイナミックなラインがアルバムの中でも出色の「Ghana」という冒頭の流れには、現在のD.A.N.のベーシックがよく表れている。

 一方、ブレイクビーツ風の「Native Dancer」ではドラムを軸にベースが寄り添い、細かく跳ねるリズムが印象的なラストの「Pool」も、ドラムを主役に置きつつ、チョッパーを交えたベースがそこにファンキーに絡み、うねりを生み出していくという印象だ。より音数を絞ってドープに聴かせるアルバム中盤から後半の楽曲も含め、『D.A.N.』はデビューアルバムにして非常に高い完成度を誇る、2016年屈指の傑作だと言っていいと思う。

 2016年はフィッシュマンズのデビュー25周年にあたり、関連リリースやひさびさのツアーなどで盛り上がりを見せている。ceroやYogee New Wavesなど、彼らの遺伝子を今に受け継ぐ良質なバンドはたくさん存在しているが、クラブカルチャーとの接点から生み出されるフィジカルな高揚と、心の内側へと深く沈み込むサイケデリアを持ち合わせているD.A.N.こそが、正統な後継者だと言ってもいいのかもしれない。

(文=金子厚武)

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