女性アイドルはなぜ“走る”のか? AKB48、ももクロらの楽曲から考察

 大きな節目として目立つのは、ももいろクローバーZの前身、早見あかり在籍時のももいろクローバーによる「走れ!」である。2010年5月5日に発売した『行くぜっ!怪盗少女』のカップリングとして収録されたこの曲も、タイトルから分かる通り“走る”ことをテーマに据えた楽曲のひとつだ。

 歌詞の世界観はAKB48の「大声ダイヤモンド」と同様、恋愛を歌ったものである。表記こそ多少の違いはあるが“僕”と“キミ”の世界観の中で、伝えたくても伝えられないもどかしさが歌われる点においてもイメージは重なる。ただ、目標を掲げて有言実行していくももクロのサクセスストーリーと共に、受け手の解釈も多様化をみせはじめた。

 やがては国立競技場でのライブを実現するに至ったももクロの軌跡をたどると、次第にこの曲の意義は「ファンと共に走る」というテーマへ置き換えられていった。次に目指す場所を公言し、ファンと一体となり目標へ向かって進んでいく。そのスタイルは「アイドル戦国時代」のさなかにおいてはひとつのモデルとして確立されたが、局面ごとにある種のアンセムとして歌われる「走れ!」は、いわばグループとしての、そしてグループを見守り続けるファンにとっての“決意表明”ともとれる楽曲へと昇華されていった。

 以降、女性アイドルたちの楽曲においては、テーマを“走る”としながらも、主語がグループそのものを連想させるものが目立つようになった。例えば、ももクロと同系列であるスターダストのグループでは、私立恵比寿中学の「もっと走れ!!」やチームしゃちほこの「もーちょっと走れ!」へ、そのスタンスが受け継がれている。

 多数のグループがしのぎを削る女性アイドル界。今この瞬間にも、彼女たちはより大きなステージへ羽ばたこうと奮闘している。MVを観ても“走る”場面がとりわけ印象に残ることには、きっと疾走感や躍動感を表現する以上の意味がある。彼女たちの明日を支えようとするファンと思いを重ね、ともに走り続けるんだという“決意”の表明――それが、ファンとのさらなる一体感を醸成する要因のひとつになっているに違いない。

■カネコシュウヘイ
編集者/ライター/デザイナー。アイドルをはじめ、エンタメ分野での取材や原稿執筆を中心に活動。ライブなどの現場が好きで、月に約数万円はアイドルへ主に費やしている。単著に『BABYMETAL 追っかけ日記』。執筆媒体はWeb『ダ・ヴィンチニュース』『クランクイン!』『ウレぴあ総研』、雑誌『日経エンタテインメント!』など。

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