SPEEDSTAR RECORDSレーベル長、小野朗氏インタビュー「メジャーレーベルとして、タコツボの臨界を超えていく」

SPEEDSTAR小野朗氏のレーベル運営術

「星野源は、自分のポジショニングを別のカメラから見ている」

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ーー先ほど挙がった星野源さんは昨年12月にリリースした『YELLOW DANCER』がヒットを記録していますが、このヒットに関して小野さんはどのように分析していますか。

小野:洞察力というか、自分のポジショニングを別のカメラからしっかりと見ているというところが鋭いと思っています。「今自分が、ここでどういう発言をすることによって、誰がどう反応をするだろうか」というのをすごく考えている。確か2~3年前に彼と話していたことで、「自分は70’Sないし80’Sくらいのブラックミュージックがもともと好きで、分かりやすく言うとマイケルみたいなことを、J-POPの文脈の中でやるというのはアリじゃないかと思っているんだ」みたいな話をされたことがあって。彼の中では、ある種の計算があったんでしょうね。シングル『SUN』ができる少し前に日本でもマーク・ロンソンがヒットしたり、ファレル(・ウィリアムズ)が受け入れられて、その時にはもう確信に変わったということを言っていたように思います。その前には「桜の森」という曲を作った時点でのお客さんの反応や、そういう洋楽の状況から確信的に、『YELLOW DANCER』を作り上げたんだと思う。要所要所で彼が今やろうとしていることを聞いていたから、その洞察力はやはりすごいなと思いました。そして「さらに多くのリスナーにアピールするんだ」というマスへの方向と、彼独特のマニアックな方向と絶妙のバランスを保つ彼の自己プロデュース力を、僕たちはそのバランスを間違えないように、アピールしていかないといけないと考えています。

ーー現在の音楽市場では、ユーザーがセグメント化=タコツボ化しているのはよく指摘されるとおりです。それを踏まえ、細分化された需要層をしっかり狙っていくという考え方もまた有力ですが、SPEEDSTARの場合は、サザンオールスターズや星野源さんなどの届け先として、国民的というか、広く大衆を想定しているように見えます。

小野:「タコツボを狙う」ということは、ロジカルに考えられると思える反面、そこで終わってしまうという懸念がつきまといます。メジャーのレーベルとしては、その臨界、閾値を超えるということをずっと狙い続けなければいけないと思うんです。例えば1月にアルバム『THE LAST』をリリースしたスガ(シカオ)さん。アルバムの制作時には意識的に「今までとは違うところにはみ出していくんだ」という強い意志を持ち、今までの“スガシカオ流ポップス”というものは、とにかく一旦置いておくんだと言っていました。SPEEDSTARで一緒にまたメジャーでやろうと思ってくれた以上は、その意思にきっちり付き合いたいと思っていましたね。その結果として、『THE LAST』は大きな反響を得ることができました。「でも現状に満足するのではなく、次はどうするんだ、もっと売るためにはどうしたらいいんだ」というチャレンジはやめたくないですね。

ーーそんな中、今年デビューした雨のパレードは興味深いバンドです。リアルサウンドでインタビュー(雨のパレード・福永浩平、バンドシーン刷新への所信表明「僕らが思いっ切りパンチを入れないと」)を掲載した時も大きな反響がありましたが、彼らは明らかにマスを指向してますね。

小野:3月2日にアルバム『New generation』をリリースしましたが、すごく評判が良いです。インディでの実績がほとんどなかった状態で、デビューアルバムが今5000枚くらい。スタートダッシュとしてはすごくいい感じだし、彼らは貪欲なので楽しみですね。今年は新人アーティストをどう売り出していくかを中心に考えたいなと思っているんです。雨のパレードや藤原さくらなど、出てきているアーティストをきっちり軌道に乗せる。それから次の世代のアーティストを探そうぜ、と今年は言い続けようと。シーンとしてもポストフェスのような音楽性を持つバンドも増えてきていて、最近の若手が作る音楽シーンも面白いですよね。できる限り、今の時代のシーンともコミットしていけるようにしていきたいです。

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