「我々は80〜90年代をまだ生きてる」4人のアイドル論客が語る、アイドル楽曲とシーンの変化

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『第4回アイドル楽曲大賞2015』

 阿佐ヶ谷ロフトAで2015年12月29日、『第4回アイドル楽曲大賞2015・結果発表イベント』が行なわれた。同イベントは、リアルサウンドでも活躍するピロスエ氏が主宰し、有志によるインターネット投票でアイドル楽曲の順位付けをする企画サイト第4回アイドル楽曲大賞2015の集計結果について論客が語り合うもの。この日のコメンテーターは2014年に引き続き、アイドル専門ライターの岡島紳士氏と、音楽評論家の宗像明将氏、日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立つガリバー氏が参加。アイドル楽曲についての熱いトークを繰り広げた。リアルサウンドでは、年が明けたタイミングで改めて4氏に集結してもらい、同サイト・イベントについての座談会を実施。前編では2015年のアイドル楽曲・シーンの変容と今後についてや、<T-Palette Records>がメジャー部門のランキング上位を独占したことを受けての「部門分け」まで、存分に語ってもらった。

「過去の遺産を踏襲するポピュラーミュージックとしては正しい流れ」(宗像)

――『第4回アイドル楽曲大賞2015』は、メジャー1位にNegiccoの「ねえバーディア」、インディーズ部門の1位にわーすた「いぬねこ。青春真っ盛り」がそれぞれランクインしました。主催のピロスエさんはこれらのランキングに対してどういう感想を抱きましたか。

ピロスエ:今回上位に入ってきた曲の中で個人的に好きなのは、夢みるアドレセンスの「くらっちゅサマー」でした。元Cymbalsの矢野博康さんが作詞・作曲・編曲すべて手がけていて、2014年のNegicco「トリプル!WONDERLAND」と同じく、とても好きなサウンドです。この曲はケンタッキーとのコラボ曲で、MVも制作されてはいるのですが、シングル表題曲ではありません。にもかかわらず11位に入ってきたのは嬉しかったですね。そんなに知名度の高くない曲でも広く知ってもらえるというのが、この楽曲大賞というイベントの大きな特色なので、こういった「良い曲」のフックアップは今後もたくさん起こればいいなと思っています。

宗像:もうまとめに入りましたね。

Negicco「ねぇバーディア」MV

 

夢みるアドレセンス 『くらっちゅサマー』MV

 

――(笑)。岡島さんはどうでしょう。

岡島:楽曲派視点で言うと、渋谷系人脈の音楽家が作った曲や、黒人っぽいファンクな楽曲が上位に行きやすいみたいなイメージがあって。実際にそうともいえますが、楽曲大賞の特色としては「現場で一体感が生まれるような曲」が上位にくることも多いんですよね。昨年だと、Dorothy Little Happyの「恋は走りだした」が1位になったりとか。あの曲は在宅派だけじゃなくて、楽曲派かつ現場派の人も投票したというのが分かるくらい現場向きの曲でしたから。

――そうですね。今年でいうと、インディーズ部門のわーすたはその傾向が強い。

岡島:わーすたに関しては(1位を獲得した「いぬねこ。青春真っ盛り」ではなく)別の「Zili Zili Love」に投票したんですけど、現場で盛り上がれるような曲も、CDだけ聴いてても楽しいような曲も本当に幅広く作れて、両方の需要を満たしているグループだと思います。活動当初からそれができるということは、内部に相当“わかってる人”がいるんでしょうね。

宗像:黒人音楽の要素があると上にくる傾向は、メジャー部門の10位にランクインしたEspeciaの「Aviator」あたりに継承されていますね。あとは、インディーズの1位がわーすたの「いぬねこ。青春真っ盛り」で2位がBiSHの「BiSH -星が瞬く夜に-」だった。特にわーすたが1位だった時は微妙な反応がタイムラインに見受けられました。

Especia - Aviator/Boogie Aroma

 

――会場もちょっとざわっとしましたね。

宗像:BiSHに1位を獲らせた方が、座りはいいんじゃないかなとも思ったんですけど、それもなんか違うんじゃないかって言う人もいたんです。結局、オタの細分化が進んじゃって、誰が1位に来てもみんな納得しない。例えば、わーすたとBiSHを両方聴いてる人ってそんなに多くないと思うんですよ。細分化が進んでわかりづらくなっているなかで、新しい価値観としてフラットに並べて見せるのが『アイドル楽曲大賞』だから、ある種の混迷もいいんだろうなと思いました。

――宗像さんがイベントの最後に「僕たちは渋谷系や80年代〜90年代の余韻の中に、まだずっといるのかもしれない」と言っていたのも印象に残っています。

宗像:アイドルネッサンスがカバーしている大江千里の「YOU」は、原曲が1987年リリースなんですよね。我々が中学生ぐらいの時に胸をヒリヒリさせていたものが、30年の時を経て少女たちによって復活すると。Negiccoもレキシの池田貴史さんが作曲を手掛けた「ねぇバーディア」が1位、2位の「光のシュプール」も田島貴男さんがアレンジで「ORIGINAL LOVEらしさをリクエストされた」という楽曲です。それぞれが渋谷系や80・90年代を美しく踏襲しているのを見ると、「我々は80年代、90年代をまだ生きてるのだ」と感じました。でも、それは過去の遺産を踏襲するポピュラーミュージックとしては正しい流れなのかもしれません。

アイドルネッサンス「YOU」(MV)

 

Negicco「光のシュプール」MV

 

岡島:投票者の年齢層ってどうなんですかね。僕の感覚だと、こういうのに興味持って投票してくれるのは30代以上なのかなって。80年代、90年代に青春を過ごした人たちがもう一回その層のクリエイターを使って、アイドルに歌わせているものが上位にくる、という傾向にあるのかもしれません。

宗像:ランキングの中に楽曲派的なものと、現場系派みたいなものが混戦状態になり始めていて、2015年はアイドル楽曲大賞における「ベスト」とは何かという価値観が混乱し始めた一年だったのかも。

岡島:僕らはコメンテーターとして、個人的なTOP5を発表していますが、みなさんの投票と全く違うし、自分の選んだ楽曲がランキングにかすりもしていない場合もある。混乱というより、もとよりそれぞれの思っている順位が全く同じになることなんてないし、だからこそ投票形式が面白いわけで。とはいっても、自分は総合順位に対して毎年納得できていないんですけど(笑)。

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