長渕剛が語り尽くす富士山麓ライブ、そして表現者としての今後「世の中に勇気としあわせの爆弾を落としていく」

長渕剛、富士山麓ライブを語る

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「いよいよ本来の意味での自主制作の時代に入った」

ーー富士を終えて、アーティストとして、表現者として何か変わったことはありましたか?

長渕:表現者としての“死”を見つめるようになりました。これまでも考えなかったことではないんですけど、より深く見つめていかないと伝わらないぞ、という。「死を以て表現が完結す」と考えたときに、生あるうちに自分をどう表現していくか、自分の死に様をどう表現するか。寿命はあっても動けなくなったら表現できないですから。この先、もし大病をして、身体に管を通されてまで生きたいかといえば、僕はそれを選ばない。表現者としての道を最期まで貫くのであれば、管を外してギターを持ってパーーーン!と散るほうを選びます。

ーー「オールナイト・ライヴは今回で最後」と開催前より公言してましたが、“アーティスト・長渕剛”として今後やりたいこと、野望はありますか?

長渕:新しい歌を書きたい。「とんぼ」「乾杯」は生涯歌わない、歌ってやるもんか、という。昔「順子」がヒットしてね、あるときから10年歌ってない。あのときも今と同じで、「なぜ、ヒット曲にぶら下がらなければならないのか」と思ってた。曲は作り手の瞬間的な作品であって、ヒットしたものは聴いた人たちのもの、という感覚があるんです。だったら自分がカラオケ行って歌えばいいじゃない、と思ったりするんですよ(笑)。作り手としては自分の新境地を作品に投影していくことが、まず表現者としてやらねばいけないこと。それに対して「聴きたくない」と酷評が出たら終わりです。

ーー「とんぼ」しかり、オリジナルとはまったく違うアレンジで演奏されることも多いですが、ファンの間では賛否両論あるところですね。

長渕:歌というものは時代とともに変幻自在に変わるべきものだと思ってるんです。「俺たち、私たちが聴いた昔のまんまで歌ってほしい」という気持ちはもちろん解るんですけどね。でもそれって、「昔の自分の時代は輝いていて、現在の時代は輝いてないということなんじゃないか」とも思ったりします。常に輝いていなければいけないし、常に新しいものに立ち向かって行かなければならない、そういうメッセージでもあるんです。現在の時代の中に「GOOD-BYE青春」や「ひまわり」といった歌がどうやったら溶け込むかを考えると、ああいうアレンジになるんですけど。それが伝わらなきゃ、自分が失敗したんだろうし。「昔、あのとき、あの歌は」というカテゴリになってしまうのはイヤなんです。「そうはいかねぇぞ」と(笑)。まぁ、夕暮れに思い出を重ねて涙するような気持ちも解るんですけどね。そういうもの対しては企画ありきでやったほうがいいですね。「何も変えない、昔のまんまで歌います」という。70歳過ぎてからね。

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ーーそして、気になるのは今後の活動なのですが。

長渕:今年はゆっくりしようかと思っていて。この何十年の自分自身のことを振り返ったり、この先どういう活動をしていけばいいのか、今後のことをきちんと考える。こういうこと考えるの、実ははじめてなんですよ。今、我々が作ってきた音楽業界が総崩れになりましたでしょう。それ、「ざまぁみろ」と思ってるんです、自分を含めて。バブルに浮かれて、虚栄心バリバリで、満足しすぎて危機感もなく、歌を消耗品として大量生産した。その結果、大衆が離れていった。時流の中で、貸しレコード屋やインターネットの氾濫といったものも出てきましたけど、それを越えて行ける作品がなかったんですよ。人というのは、苦しければ苦しいほど、音楽、歌を必要とするものなんです。そのときに必要な音楽を作ってこなかったツケが回ってきたんですね。

 僕も、組織の中でいろんなことがうごめいて、あれよあれよという間にヒットしたということもありましたけど、それだと自分のことだという感じがしないんですよ。聴く側も情報や電波にごまかされて、本当は好きじゃないんだけど、ヒットしてると聞けば買わなきゃ損みたいな気分になりますよね。でも、そうは問屋が卸さない時代になったんじゃないかな。聴く人の耳も精確になってきただろうし。これは僕が望んでた現況かもしれない。

ーーヒット曲の概念も、ここ何年かでずいぶん変わりました。

長渕:昔、アイドルを生産しつづける勢力があり、片や僕らのような自分の言葉とスタイルで歌うもう一つの勢力ができて、争ったんですけどね。ところが、それがいつのまにかどこかで吸収されちゃうんですよ。それに対し、僕はひとりで牙を剥いてきた。叩かれながらも屈強に耐えようと、作品を生み続けてきた。それをファンがガチッとロックしてくれた。長渕剛とファンが一つの“影響力”を創りながら時代に問いかけてきたんです。これは僕とファンとの信頼です。この“影響力”がある以上、僕は歌を書き続けてファンと一緒にロックして、世の中に発信していく。さらに研ぎ澄ました歌を書きたいという気持ちは以前より強くなってますし、もっと密接に、自由に、彼らに届けることができるのではないかとも思っています。だから、いよいよ本来の意味での自主制作の時代に入ったことでもありますよね。これはとてもいいことだと思う。

ーーこれまで以上に“求められる音楽”が重要になってくる時代ですね。

長渕:この“影響力”ーーあの青い生命体はとんでもない生命力ですから。あの生命体の中にいつでも僕は入っていきます。誰から何を言われようと、僕と、長渕剛の歌を愛してくれる人間の中で生まれる作品を確実にロックして、世の中にバーン!バーン!バーン!と、勇気としあわせの爆弾を落としていかなればいけないと思っています。

(取材・文=冬将軍/写真=辻徹也、西岡浩記)

■リリース情報
『富士山麓 ALL NIGHT LIVE 2015』
発売:2016年2月3日(水)
【Blu-ray(5枚組)】 ¥20,000(税抜)
【DVD(5枚組)】 ¥18,000(税抜)
(全43曲収録+スペシャル・ドキュメンタリー、
「在りし日のレオ」特典映像収録)
解説:湯川れい子、栗原康

Disc1/1部 2時間24分
Disc2/2部 1時間24分
Disc3/3部 1時間11分
Disc4/4部 1時間44分
特典映像「在りし日のレオ」11分27秒
Disc5/ドキュメント 1時間33分

【CD】 ¥5,000(税抜)
ブックレットには杉田俊介氏による2万字におよぶライヴ体験記収録(月刊文芸誌「すばる」より)

DVDは8.22「富士の国」スペシャルライヴ 収録
※映像商品(Blu-ray&DVD)に収録されるスペシャル・ドキュメンタリーとは別内容

■オフィシャルHP
http://www.nagabuchi.or.jp/

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