世界の定額制音楽配信は今どうなっている?  ジェイ・コウガミが分析する各サービスの現状と今後

 ここまでは世界のシーンを振り返ってきたが、日本も2015年は大きな転機を迎えた。日本からは「AWA」「LINE MUSIC」と2つの新サービスが生まれた。さらに、Apple Musicの日本ローンチに加えて、グーグルの「Google Play Music」も始まった。アマゾンからはプライム会員が利用できる「Prime Music」が開始し、ようやく定額制音楽配信が一つの音楽メディアとして話題をさらった一年だった。

 特に大きかったのは、アップル、グーグル、アマゾン、LINEといった誰でも知っているテクノロジー企業がこぞってこの領域に踏み込んできたことで、一般消費者が抱える音楽への関心を少しでも高める兆しを作り出せたことは、今後にとって大きな一歩だと思いたい。

 定額制音楽配信で楽曲を配信するか、しないかの議論は、リスナーにとって気になる話題だ。昨年はビートルズのカタログが解禁したことは大きなニュースとなった。これまで配信を頑なに拒否してきたビートルズまでが開放し出したことで、定額制音楽配信の可能性は世界規模になったと考えても過言ではない。その一方で、アデルは最新アルバム「25」の配信を頑なに拒んだ。「25」は配信をしなくても、CDとダウンロードだけで昨年最大のヒット作品となって世界中で今も伸び続けている。プロモーションを含めて、ファンの距離感をどうコントロールするか、熱狂的なファンとどう関係を築くかの見極めは、これからの音楽業界にとって悩みの種になっていくのではないだろうか。

 定額制音楽配信の可能性は、音楽が聴けるアプリの域を超えて、すでに音楽業界の構造そしてリスナーの音楽生活と融合し始めている。この流れは日本でも今年はさらに加速していくことが予測される。今後、個人的に注目したいことの一つは、定額制音楽配信から生まれるヒット曲や新人アーティストの流れだ。2015年はその兆しが見えた年だった。Apple Musicではドレイクが「Hotline Bling」のPVを公開、また自身のラジオ番組で新アルバムをプレミア公開し、どちらもヒット作品となった。また、これまで全くの無名だったアーティストThe Weekndがメインストリームに出てくるキッカケを作った。Spotifyでは、再生回数5億回を超えたディプロ率いるMajor Lazerの「Lean On」が世界的ヒット曲となった。Spotifyは世界中のユーザーのビッグデータを解析した上でのプロモーション戦略を実践させるといった、新しい仕組みからヒットへと導いている。

 「高い音楽性や独自性」を持ったアーティストや曲に、世界中の「ユーザーデータ」を加えてヒットを先読みするというような戦略がますます増え、その刺激を受けたアーティストが定額制音楽配信を活用しファンに曲を届ける、そんなサイクルがこの領域から生まれることに期待したいと思う。

■ジェイ・コウガミ(音楽ブロガー、All Digital Music http://jaykogami.com

デジタル音楽ブロガー。音楽ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本のメディアでは紹介されないサービスやテクノロジー、ビジネス、最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンラインメディアや経済誌での寄稿のほか、テレビ、ラジオなどで活動する。

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