【新春放談】曽我部恵一×豊田道倫が語る20年の交友、そして2016年の音楽

曽我部恵一 × 豊田道倫、新春放談

「『超越的漫画』とかは、もう少し噛み砕く必要がある」(豊田)

ーーそして12月30日には豊田道倫さんの新アルバム『SHINE ALL AROUND』が、1月15日にはサニーデイ・サービスの新シングル『苺畑でつかまえて』がリリースされます。

曽我部:僕は常に豊田くんのことを考えていて、それこそ3日に1回ぐらいは思い出すんだけど、でも「あいつには絶対負けたくない」という感じではないんですよ。音楽を通じた友達っていうのでもないんだけど、何か繋がってる部分というのは勝手に感じてる。今回のアルバム『SHINE ALL AROUND』を聴いても、1曲目の「雨の夜のバスから見える」が割と早い8ビートの曲で、僕の新作の8ビートの曲と似ていたんですよ。これが例えば七尾旅人くんと似ていたら、ちょっと変えなきゃって考えたりするんだけど、豊田くんだと「やっぱり考えることは同じだなぁ」って妙に納得したりするんです。

豊田:あの曲、そういえばドラムの久下恵生さんが、レコーディングが終わってから、「キックは使わなかったよ」って言い出して、ちょっと待ってよって思ったんだけど、結局そのままOKにしちゃったんだよね。自分が思っていたのとちょっと違うけれど、まぁいいやって。

曽我部:そこがやっぱりいいよね。僕が豊田くんから学んだところは、たぶんそこだと思う。僕はメンバーに、僕が思ったとおりのことをやってほしいと思うタイプだったんですけど、豊田くんを見てると、人が勝手な動きをするのを楽しんでるところがある。それはやっぱり勉強になる。最近になって、そのほうが絶対にいいんだろうなぁっていうことが、ようやくわかってきました。せっかく人とやるってことは、こういうことだなぁって。僕は自分が思うようなプレイをする人を呼んできてやってもらうほうだったんだけど、豊田くんはぜんぜん思ってないことをやる方とわざとやるじゃないですか。

豊田:3年前くらいかな? 曽我部くんのサブのギターのひとが、曽我部くんそっくりに弾くから、「たしかにこれは俺と違うやり方だな」って思った。自分のフォームを伝えてやるというか。

曽我部:でも、誰かの曲を作ってるのに、ぜんぜんちがうアプローチで切り込んで、「絶対このベース変だろう」っていうのが堂々としているアレンジって、すごくポップだと思うんですよ。豊田くんのを聴いていて、そう思うようになってきた。普通だったらディレクターさんとかが、「もうちょっと別のパターンも録ってみよう」ってなるところが、もう完成形としてあるのがすごくいいなぁと思って。洋楽を聴いていても、今の若い海外のバンドとかにはそういうアレンジがあるんですよ。そういう意味でも宇波拓さんのベースって、すごくいいよね。『そこに座ろうか』とか。

豊田:フレッドレスの5弦ベースだから、ラインがよくわかんないんですよ。本人はロックが好きで、有名どころのインプロの人たちと同世代ですね。サニーデイ・サービスの新シングル『苺畑でつかまえて』は、メンバーは違うの?

曽我部:1曲目の「苺畑でつかまえて」は、丸山晴茂くんにドラムを叩いてもらったのをエディットして。2曲目の「コバルト」はリズムボックスを使って、あとはほとんどギター弾き語りですね。

豊田:曽我部くんの場合は、ソロもあるし、曽我部恵一ランデヴーバンドもあるし、サニーデイもあるから、毎回聴く前から「次はどう出るんだろう」って構えるところがあるよね。たとえばソロ名義で2013年にリリースした『超越的漫画』とかは、もう少し噛み砕く必要があると思っていて。その後のシングル曲の「汚染水」とかも、あれはいったい何だったんだろうっていうのが、いまだにある。

曽我部:『超越的漫画』と『まぶしい』と『My Friend Keiichi』は、自分の中では三部作みたいな感じはあるんだけど、あんまりどう響いてる、どう受けとめられてるかっていうのはわからない。たぶん、ちゃんとは聴かれてはいないんじゃないかな。ただ、自分なりに出し切ったという感覚はあって、しばらくはサニーデイ1本でいこうという感じなんですよ。サニーデイの昔の曲とかを、いまならどうプレイできるかっていうのは、ひとつのテーマです。今回のシングルもその考えの延長線上にあるもので、本当は春からずっとアルバムに向けて制作をしているんだけど、できなかったからシングルだけでも出しておこうという感じです。

豊田:あぁ、その感じはわかる。僕も本当はちゃんと作りこんでからアルバムにしたかったんだけど、「まぁ、これでいいや」って感じでリリースしちゃった(笑)。

曽我部:そうなの? ちゃんとできてるじゃない(笑)。でも、前回の『m t v』がビシって完成していたから、今回はざっくりした感じで来たな、とは思っていた。ただ、個人的な好みでいうと、今回のアルバムのほうが好きかも。前作も迫力があって、すごく気合が入っているなって思ったけど、今作にはEPでも出していた「そこに座ろうか」が収録されているでしょ。僕はこの曲がめっちゃ好きなんですよ。こういう風に聴いてほしいとか、こういう作品にしようというのがなくて、批評性も狙っていない。そこがすごく聴かせるんですよ。何回も繰り返して聴いてしまう。

豊田:1週間ぐらい、「これどうしよっかなぁ」って感じで迷っていて、12曲くらいまで絞ろうかとも思ったけど、結局そのまま出しちゃったんだよね。

曽我部:そこのせめぎ合いが、手に取るようにわかる。今回は16曲で50分くらいだけど、10曲くらいで30分くらいの作品にもできたよね。僕らの世代はまだ、アルバム単位で考えるから。このアルバムは7〜8曲目くらいでピーク感があって、でもそこからしばらく続く。たぶん、迷った挙句にこの形にしたんだなぁ、と。最後の方の「Tokyo-Osaka-San-Francisco」で、またピークがきますよね。

豊田:その曲は、風邪で声がぜんぜん出なくて……。

曽我部:あぁ、そうだったんだ。それですごくかっこいいんですね。

豊田:8畳のスタジオで、みんなの顔も見えないし、音も聴こえないし。

曽我部:それで一発録り? みんないいプレーヤーですよねぇ。冷牟田敬くんのギターもすごくよかった。

豊田:ミックスかマスタリングが終わった時に、なんか寂しくなって、七尾くんに電話したんですよ。また失敗作を作っちゃったって。でも、七尾くんには、「豊田さんが作ってきた90年代の尖ってきた作品も、周りのミュージシャンは失敗作だと思ってましたよ。だから、今聴いても古くないんですよ」って言われたんですよ。あー、みんなそういう風に見ていたんだって、妙に納得しちゃった。

一同:爆笑

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