星野源が『YELLOW DANCER』で成し遂げた快挙 チャート1位作の音楽的達成を読む

 一方で、ギターのリフがイントロで響く「SUN」ではソウル・マナーが踏襲されています。ずばり「Soul」と題された楽曲では、演奏や歌唱におけるタイム感の鋭さに軽く背筋が伸びる思いでした。「Snow Men」の演奏のタイム感にも同じ気持ちになることに。ピアノにニューオリンズ風味が漂う「地獄でなぜ悪い」や、ジャジーな「ミスユー」も収録されています。そして、ソウルやジャズをサウンドに取り入れても、それはこれまでの延長線上にあり、あくまでナチュラルです。さらに、「Soul」を筆頭にシンガーとして表現の幅を広げながら、自身のスタイルで歌いこなしている点が『YELLOW DANCER』のポイントでしょう。ソウルやジャズを吸収した楽曲では、シンガーとしての星野源の覚悟すら感じました。

 シティ・ポップという言葉はほぼ濫用状態になっていますが、『YELLOW DANCER』は別にシティ・ポップ扱いされてもかまわないし、単にJ-POPとして売られても問題なく、しかもコアな音楽ファンに聴きこまれることにも耐えうるという、類まれなアルバムです。こうしたアルバムがこれほど売れて、J-POPのメインストリームにある状況には、素直に快哉を叫びたくなりました。ソウル・ミュージックを歌う日本人としてのアイデンティティが表現されたのであろう『YELLOW DANCER』というアルバム・タイトルも納得できる作品です。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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