きのこ帝国の音楽的変化と一貫性 あーちゃんのピアノとギターサウンドから紐解く

 もちろん、ボトムをしっかり引き締めるリズム隊や、佐藤によるアウトロのギターソロにはオルタナな質感も残っていて、個人的にはバンドがリスペクトを表明しているsleepy.abの「アンドロメダ」を連想したりも。また、ロッカバラード調の「スカルプチャー」や、メランコリックな雰囲気の「ハッカ」でもピアノがフィーチャーされ、やはりアルバムの大きな色となっている。

 「ピアノを軸としたきのこ帝国」という新たな側面を披露する一方で、初期を彷彿とさせるサイケデリックなギターサウンドも存分に聴くことができるのは、インディーズ時代からのファンには嬉しいところ。ピアニカによるイントロからして、フィッシュマンズ~あらかじめ決められた恋人たちへの系譜に連なるダブ風ナンバー「夏の夜の街」のアウトロでは轟音ギターがかき鳴らされ、アップテンポの「35℃」も後半のスネアロールと共に空間を埋め尽くしていくギターが印象的。浮遊感たっぷりの「ドライブ」や、本作の中では最もオルタナ感があり、録音も生々しい「YOUTHFUL ANGER」で聴くことのできるファズギターによるノイジーなソロも非常にらしさが出ている。フレージング自体がものすごくテクニカルというわけではないが、音像そのものにあーちゃんというギタリストの記名性がはっきり表れていると言えよう。

 これまでになくポップなアー写やジャケットから、「きのこ帝国はメジャーに行って変わってしまった」なんて思う人もいるかもしれない。もちろん、彼女たちは上を目指して今も現在進行形で変わり続けている。しかし、決して短くはない助走を経て、インディーズデビュー後の3年を勢いよく駆け抜けた愛すべききのこ帝国は、『猫とアレルギー』にもしっかりと刻まれている。

(文=金子厚武)

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