ROTH BART BARONが語る“インディペンデント精神”の矜持と展望「今の状況はエキサイティング」

ROTH BART BARON、新作と活動方針を語る

「モントリオールの若いミュージシャンは、たいていエクスペリメンタルな音楽をやっている」

――前回のインタビューでは、もう少し“ロックバンド的”なサウンドを取り入れたいと言っていましたが、今作で意欲的に吸収しようとしたテーマ・ジャンルはありますか?

三船:僕らの小さいころは、『ターミネーター』や『ロボコップ』などのハリウッドSF映画が、週末の夜9時からテレビで放送されていました。小学校の友達との共通の話題は、『金曜ロードショー』などの映画だったりして。それらの映画では、プレーヤー志向の音楽がエンディングテーマに使われていたり、挿入歌になっていて、CG、というよりVFXが使われるようになったころです。コンピューターもタイトル・ロゴのエフェクトなどにちょっとだけ使われる程度でしたし、セットもミニチュアが使われることがまだ普通で、作りもののロボットを実際に手で動かしながら撮影されていました。そういうデジタルなものと有機的なものがミックスされた雰囲気が、知らず知らずのうちに自分の音楽に影響していると思います。当時はダサいという気持ちもあったものの、好きで見ていた“毒々しい”雰囲気のデジタルなニュアンスを、音楽を作っているうちに自分の中で再確認するというのがあったのかも。それをふまえて、コンピューターというものが世の中のトップの位置にある2015年において、東京という都会に住んでいたらどういうサウンドができるのかということを、常に考えて音楽を作っていたという気がします。

――話してもらった映画の例えから紐解くと、フィジカルな感覚がまだ残っているようなデジタル感というものでしょうか。

三船:手作りの感覚が残っている、という感じでしょうか。見方によれば、当時の映画はダサいとかカッコよくないとか思ってしまうんですが、そういう滑稽さというものから、意外と人間は滑稽な存在なんだと思ったり、愛嬌があると感じたりします。もともと僕は母親の影響で、小さなときから東宝映画の『ゴジラ』や円谷作品の『ウルトラマン』を見て育ってきたので、子どもの時は映画の監督になりたいと思っていましたし、特撮の世界に興味があったんです。大人たちが爆竹を仕掛けているようなのを見るのが面白くて、映画の本編よりもメイキングを見るほうが好きで、駄菓子屋で買ってきた爆竹でプラモデルを破壊させるような真似ごともしてました(笑)。

――2015年の現代で、懐かしくレトロな感じの音楽を作るというやり方もあると思いますが、ノスタルジーにとどまらず、現代的な表現に落とし込んでいるのが、今作の特徴ではないでしょうか。

三船:今話したSF映画は、ほとんどストーリーのなかで世界が滅んでいますよね。そのなかを生き残った少ない人口がどうするか、という話の流れがあったから、僕らは小さいときに、大人になったら第3次世界大戦のような戦争が勃発し、人々は穴ぐら暮らしを強いられて、明日がどうなるかわからない生き方をすると思っていましたが、意外と順調に成長できました(笑)。近年はコンピューターやインターネットを通じたビジネスのおかげで、スマートフォンのような小型のコンピューターを一人一台持つようになり、24時間インターネットにつながった生活ができるようになりましたよね。音楽に関しても常時ストリーミングで聴けるSpotifyのようなものが現れました。僕自身は、そういうテクノロジーが発展することをすごく楽しいと思っている人間なのですが、その部分と、使い方を一歩間違えたら怖い状況に陥るというリスクは、いわばコインの表裏のようなものだという気持ちもあります。また『ターミネーター』を例えにしますが、スカイネットのような思考を持ったコンピューターが暴走して軍事テクノロジーをすべて支配してしまい、あのような惨事が引き起こされた、と90年代での映画の中では語られていましたよね。いまはそこまで極端ではないものの、あながち間違っていない未来になったような気がします。そこで、2015年の日本・東京が舞台になっているSF映画のサウンドトラックを作るとしたら、どういう曲になるんだろうということを考えたときに、デジタルな感覚と手作りの感覚の融合を起こすという、前向きなアイディアが浮かんできました。

――1stではミュージカルソーの音を入れたり、iPhoneのボイスメモでボーカルを録るなど、実験的な録音方法を試していましたが、今回はどのようにアップデートしましたか?

三船:そういう実験的な手法はたくさん使ったので、どれをお話すればいいのか分からないくらいです。環境の面で言うと、モントリオールに関しては、実験的な音楽を作ることが当たり前のようになっていて。若いミュージシャンはたいていエクスペリメンタルな音楽をやっているし、実際に現地でも「あのバンドは面白い」とエンジニアから教えられて見に行ったら、若い男の子がバイオリンをフィードバックさせて一音だけドローンのように弾いていたり、10代くらいの若い女の子もシンバルを叩きながら「Ah―――!」と歌うのを30分続けていたんです。僕も日本で作ってきたノイズがあったので、それを現地の音楽家に聴かせたところ、評判がよかったですし、いわば“悪さをすればするほど褒められる”世界だなと感じました。(笑)

――モントリオールはジャズのイメージが強かったので、そこまでエクスペリメンタルな音楽が浸透しているのは意外でした。

三船:ブラックミュージックが大好きで、憧れを抱いている人が多いという印象です。モントリオールはフランス語圏なので、オタワやトロントなど、イギリス系の住民が多いほかのカナダの都市と違うんです。だからこそ、彼らは自分たちのルーツに対してプライドを持っていて、「他の都市の人たちとは違うんだ」という自覚がある。街でもケベック州の旗はよく見ましたが、カナダ国旗はあまり見なかったり。ただ、他の人種に対してはすごくフレンドリーで優しかったですよ。

――再び前回インタビューの話に戻りますが、三船さんはご自身の歌を一つの“楽器”として捉えていると語っていました。今回の作品は1stよりも“歌”のイメージが強いと感じているのですが、歌に対する意識もライブを通じて変わったのでしょうか?

三船:意識的に変えたわけではないですが、モントリオールのスタジオで収録した歌は、今までの自分とは全然違うところが出ていたという感じがして、その場所でしか録れないようなテイクがたくさん収録できました。あと、自分のこだわりとして、コンピューター上でエコーを掛けることがあまり好きではないので、大きな鉄板に歌を反響させてエコーを作っているんです。そういうことをできるかどうかがスタジオ選びの基準であり、生音の響きを大切にするということなのだと思います。

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