>  >  > 愛すべき「邦題」文化を再考

市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第32回

失われつつある「邦題ワールド」の愉悦 市川哲史が洋楽全盛期の名作・珍作を振り返る

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 12年も前にどこかに書いた原稿が、ファイルの片隅から見つかった。懐かしいので全文掲載してみる。

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 日本人にしか味わえない洋楽の愉しみ方、それが〈邦題〉である。80年代後半頃からすっかり衰退し、今や原題のカタカナ表記に落ち着いてしまった観があるが、担当ディレクター氏の感性が問われる「一番大切な仕事」だったのだ。

とにかく原題の直訳モノの方が却って珍しく、バンド名やジャケの絵柄からの安直な発想もあれば、やたら文学的な妄想物もあり、更には全く自由奔放な売れ線狙いなど、下手すりゃ中身を聴かなくても邦題だけで充分堪能できた。

 キッスの『地獄の~』やディープ・パープルの『紫の~』、スコーピオンズの『~の蠍団』といったシリーズ作品は多かったな。また『原子心母』や『さかしま』や『こわれもの』といったヨーロッパ映画タイプは、評判良かったはずだ。

個人的に抱腹絶倒だったのは、エアロスミスの2ndアルバム『GET YOUR WINGS』――だって『飛べ!エアロスミス』だよ? 飛べないよスティーヴン・タイラーは。ダムドの『地獄に堕ちた野郎ども』も、よくわかんないけど不死身っぽいし。

 ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』の邦題をいちいちチェックしていたのは有名な話だが、洋楽アーティストからもクレームが殺到したため、せっかくの日本独自の邦題文化も消滅してしまったようだ。レディオヘッドのアルバムなら『脳に毒電波がやってきたヤァ!ヤァ!ヤァ!』とか、ブリトニー・スピアーズなら『腿と乳の谷間で』とか、怒られるの覚悟でもう一度やってみませんか皆の衆。

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 たぶん『オリコン』用だろう、〈愛すべき邦題ワールド〉初心者に向けて書いたと思われる。担当者の妄想全開の超訳日本語タイトルは、現題から遠ければ遠いほどその妄想力に惹かれるから不思議だった。その反面、『THE RIZE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』――架空のロックバンド〈ジギー・スターダスト&ザ・スパイダース・フロム・マーズ〉の伝説、のはずが脇目も振らず直訳してしまった『屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群』の、肩肘張った文学性もまた妙に恰好よかったりするからやめられない。

 そんな素敵な邦題たちも21世紀を迎えるあたりから一切に姿を消し、どんなに長くなろうが原題のカタカナ表記に新作は統一され、それどころか旧作まで改題されていった。当時、時代はワールドスタンダードってやつだったのだ。ださ。

 しかし、首都圏の大手レコード店チェーン〈ディスクユニオン〉が紙ジャケCDセット買いのオリジナル特典として、国内初発売時の帯をミニチュアで復刻。ネットオークションで高値取引されるほど昭和世代に好評を博したため、同一タイトルの再紙ジャケ化以降はレコード各社が最初から復刻帯仕様でリリースするようになる。

 すると、あの独特のポップ感を醸し出してる、発売当時はきっと最先端だったであろうフォントで大書されたイカレた邦題が、再び陽の目を見たのだから愉しいじゃないか。昨年だったか、テイラー・スウィフトの新曲「We Are Never Ever Getting Back Together」が久々の直球邦題「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」でリリースされたのも、画期的な出来事ではあった。

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