Alfred Beach Sandal、柴田聡子、デラドゥーリアン…… ユニークな個性が光るSSWの新譜5選

 続いて女性シンガーをもう一人。元ダーティー・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアンは、その個性的な歌声でビョークやU2、フライング・ロータスなど様々なアーティストと共演してきた。そんな彼女の初めてのフル・アルバム『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』は、意外にもカナダのヒップホップ/エレクトロ系レーベル、アンチコンからリリースされた。すべてのトラックを彼女ひとりで作り上げていて、エレクトロニックなサウンドをベースにしながら、アフリカや中東を思わせるエキゾチックなメロディーとトライバルなビートが辺境サイケ的異空間を生み出していく。その中心で強烈な存在感を放っているのが、オノヨーコやビョークの系譜に連なる肉体を楽器にしたような変幻自在のボーカル・パフォーマンスだ。呪術的ともいえる声の力とモダンなサウンドメイキングが融合しているあたりはダーティ・プロジェクターズに通じるところもあるが、こちらのほうがより艶かしくてミステリアス。

 ショーン・ニコラス・サヴェージはカナダのインディー・シーンで密かに愛される男。なにしろ、マック・デマルコやドルドラムズが参加したトリビュート・アルバムがリリースされているくらいなのだ。そんなサヴェージの新作『Other Death』には、同郷のインディー・ポップ・バンド、トップスや、LAの宅録女子、ナイト・ジュエルが参加。そのサウンドは打ち込みやシンセで作り上げたアーバンなブルーアイド・ソウルで、ファルセットで囁くサヴァージの歌声が羽毛のように耳をくすぐる。ライやインクに通じる洗練されたソウル・ミュージックを奏でながら、同時に得体の知れないいかがわしさも漂わせていて、アリエル・ピンクとプリンスがピロートークを交わしているようなキッチュな甘美さがたまらない。アルバムのタイトルやジャケットのデザインからして、2013年にリリースされた『Other Life』と対になっているアルバムのようなので、今後この2作はサヴェージの〈赤盤〉〈青盤〉として楽しみたい。

 そして最後は、90年代オルタナ全盛期にローファイ・シーンの旗手として活躍したルー・バーロウの新作『ブレイス・ザ・ウェイヴ』。ダイナソーJrを皮切りに、セバドー、セントライドー、フォーク・インプロージョンなど、様々な名義で作品を作り続けてきたバーロウ。00年代に入って本人いわく“オフィシャルな”ソロ・アルバムを2枚リリースしたが、3作目となるのが本作で、再結成後のダイナソーのアルバムを手掛けてきたジャスティン・ピッツォフェッラートをエンジニアに迎えて、たった6日間でレコーディングされた。過去2作ではゲストを迎えていたが今回はバーロウひとり。アコースティック・ギター一本でライヴ・レコーディングした曲もあれば、キーボードやコーラスを重ねてバンド・サウンドのようなダイナミズムを生み出した曲もある。ザラついたローファイな音響のなか、どの曲もバーロウ節と呼びたくなるようなメランコリックなメロディーが映えていて、ナイーヴさを秘めた骨太な歌声が胸に沁みる。ルーツ・ミュージックを独自に消化しながら、バーロウの出発点であるパンクの熱も感じさせて、枯れているようで熱い、何度聴いても聴き飽きない歌だ。10年以上前、フォーク・インプロージョンで来日した時、ライヴを終わった後に「日本の観客は静かに演奏を聴いてくれて嬉しいよ」としみじみ語っていたバーロウ。その後、ダイナソーやセバドーなどバンドでの来日が続いたが、次はひとりでギターを片手にぶらっと来て欲しい。今度も静かにその歌声に耳を傾けるから。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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