長渕剛の富士山麓ライブはいかにして“伝説”となったかーー入場から朝日が昇るまでを徹底レポート

20150902-buthi11.jpg
photo by 西岡浩記

10万人が朝日を引きずり出した<4部>

 午前4時45分。辺りが明るくなってきた。あいにく空は雲に覆われている。あるはずの山の姿は、そこにはない。夜明けを向かえる4部は「明日をくだせえ」で始まった。原曲に忠実なアレンジの乾いたウエストコーストサウンドが心地よい「しゃぼん玉」、雲の隙間から富士が頭をのぞかせる。

 屈指の名バラード「Myself」が終わると、先ほどまで覆っていた雲が一気に晴れ、“霊峰・富士”が朝日に照らされながら、そのすべての姿をあらわにした。

「やったぜ! まずは、富士だぁぁぁぁ!!」

 長渕が叫ぶ。

「陽が、陽がみえたぞ、昨日までずっと雨だったんだよ。もうどうしようかと思った。ここ全部ぬかるみでよ、でもみんなの力がひとつになった……」

 ありったけの力を振り絞るかのように「富士の国」が始まる。楽曲の尺など存在しない間奏では、Ichiroとピーターの壮絶なギターバトルが繰り広げられる。

「空よ! 山よ! 風よ! おれたちの、声が聴こえるか!」

「昇るか、昇らねえか、どっちかだ! 朝日を引きずり出すぞ! みんなで!」

「おい、宮崎!LEDを消してくれよ! ニセモノが見たいんじゃないんだよ! 太陽を見たいんだよ!」

「Wow〜 Wow〜」長渕とともに延々と繰り返される10万人の歌声は、もはや大合唱というよりも絶叫に近い。

「まだかーー!! まだかーー!!」

ついに、雲の隙間から太陽がその光とともにステージと10万人を照らした。

「日が昇ったぁぁぁぁぁ! 日が昇ったぁぁぁぁぁ!」

 ふもとっぱらに集まった10万人、それを見守るように富士がそびえ立つ。そこから溢れんばかりの朝陽が差し込む情景は、絶景を通りこした美しさである。

「富士よっ! 聞こえるかっ! 俺たちをしあわせにしてくれっ! 争いのない世界にしてくれっ! 俺たちみんなをしあわせにしてくれぇぇぇ!!」

 6時半を過ぎようとしていた。44曲目、正真正銘最後の曲となった「明日へ続く道」。降り注がれる朝陽を背に〈明日への用意をしよう〉と優しく歌う。スタートから約9時間半におよんだ長い長い伝説の夜が終わった。

 満身創痍ーー。と言いたいところだが、とうの長渕の声はまったく枯れていない。むしろ、「今度はあの太陽を沈めるぞー!」なんて、今にも5部が始まりそうに思えるくらい、とんでもないアーティスト・長渕剛の姿がそこにあった。

ーー「すごい」の三文字ね、それを色んな人に言わせたい。そこに集まる連中たちへ向けられる最高の三文字を僕はつくりたいんです。

(参考記事:長渕剛が語る、命がけで表現するということ「本気でかかってくる者には、逃げるか、行くかしかない」http://realsound.jp/2014/12/post-2067.html

〈長渕剛オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓〉はまさに「すごい」。この三文字に尽きた。

地元のみなさんの協力によって作られた快適な空間

 ネット上にはあることないこと書かれているようだが、野外イベントとしてはこの上ない快適さだった。フードの充実さ、救護施設、虫よけスプレーなども無償で提供されていた。そして、この壮大なライブを支えた裏には、地元民のみなさんの協力が大きかったことを付け加えておきたい。場内各所に設置された「エコステーション」は、いわばゴミ分別の場所であり、手際よくスタッフが分別の指示をしてくれる。800基の仮設トイレも空いたところをスタッフが案内し、定期的に清掃チェックが入るので、心地よく使用できた。それを担っていたのが赤いTシャツを着た地元ボランティアスタッフのみなさんである。実際にボランティアで参加していた女性スタッフ(30代)の方に、直接話を伺うことが出来た。特に「剛ファン」というわけでもなかったらしい。

 「当初は地元民も不安を口にすることが多かったけど、長渕さん本人が直接何度も足を運んで打ち合わせに参加していたことが大きい。長渕さんのことをよく知らなかった人も、みんな口々に『あのおっちゃん(長渕)すげぇな!』って言ってたので(笑)。ご本人の本気が伝わったんだと思います。私も豪胆なイメージを勝手に持ってたんですけど、実は意外と繊細だったり。魅力的な人だと今回はじめて気付きました」普段からライブの演出はもちろん、心地よくライブを観られるようにと、開演前後の注意事項アナウンスの声のトーンまで自ら指示する長渕らしい逸話である。ゴミやトイレ管理は地元の産廃業者の徹底指導の下、制作スタッフとは別に総勢100名におよぶボランティアスタッフが働いていたそうだ。

 桜島オールナイト、富士山オールナイトという、とてつもない伝説を作り上げた長渕剛は、今後どこに行くのだろうか。開催前より「オールナイトをやるのは今回が最後」と公言していたため、様々な勝手な憶測も囁かれてるようだが、あそこに集まった10万人は聴いたはずだ、長渕がステージから去るときに最後に残した言葉を。

「これからもまだまだいくぞーーーー!ありがとーーーーー!」

 来年は還暦を迎える、長渕剛。これからも我々の心を揺さぶり続けるのだろう。

(文=冬将軍)

■セットリスト
<1部>
M1 JAPAN
M2 GO STRAIGHT
M3 SHA-LA-LA
M4 ひまわり
M5 GOOD-BYE青春
M6 愛してるのに
M7 くそったれの人生
M8 裸足のまんまで
M9 かましたれ!
M10 夏祭り
M11 パークハウス701in1985
M12 THANK YOU WOMAN
M13 泣いてチンピラ
M14 勇次

<2部>
M1 とんぼ
M2 親知らず
M3 三羽ガラス
M4 てぃんさぐぬ花〜家族
M5 SUPER STAR
M6 蝉ーsemiー
M7 カモメ
M8 ひとつ
M10 しあわせになろうよ
M11 女よ、GOMEN
M12 ファイティングポーズ
M13 東京青春朝焼物語
M14 桜島 SAKURAJIMA
M15 巡恋歌

<3部>
M1 絆-KIZUNA-
M2 LONG LONG TIME AGO
M3 乾杯
M4 CLOSE YOUR EYES
M5 シェリー
M6 鶴になった父ちゃん
M7 STAY DREAM

<4部>
M1 明日をくだせえ
M2 青春
M3 しゃぼん玉
M4 Myself
M5 LICENSE
M6 富士の国
M7 明日へ向かって
M8 Success
M9 明日へ続く道

※第一興商最新カラオケ機「LIVE DAM STADIUM」では、長渕剛のカラオケに「長渕剛 10万人オールナイト・ライヴ 2015 in 富士山麓」のライブ映像を使用予定

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる