長渕剛の富士山麓ライブはいかにして“伝説”となったかーー入場から朝日が昇るまでを徹底レポート

古くからのファンにはたまらなかった<3部>

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photo by 西岡浩記

 夜も深まった午前3時。オープンカーに乗り込んで場内を走りながらの「絆 -KIZUNA-」で<3部>は幕を開けた。そのまま、客席にせり出した中央ステージでの、Dチューニングギターの幻想的なしらべ「LONG LONG TIME AGO」、大合唱の「乾杯」。「CLOSE YOUR EYES」をしっとりと歌い上げ、「シェリー」へ。〈おまえは風になる〉なだらかなアルペジオと優しい歌声とともに、夜風が心地よい最高のシチュエーションである。

 作品/ライブともに、近年長渕を裏で支えている関淳二郎がステージに呼び込まれると、「俺がまだ周囲とケンカばっかりしてた頃でさ……、」長渕が語り始める。「ツネ、命、大事にしろよ」、ドラマ『とんぼ』の小川英二だ。上京してきた交通整理をする青年に「兄ちゃん、国どこだ?(東北です……)少ないけど、これで美味いもんでも食えよ」と、あの名シーンを再現する。「長渕剛と小川英二ってのは、一心同体なんだよ」。古くからのファンにはたまらない演出だ。

 「その『とんぼ』の頃の~」と紹介されたのは笛吹利明。82年リリースのアルバム『時代は僕に雨を降らしてる』収録の「交差点」を共同アレンジしたことで親交を深め、87年の『LICENCE』ツアーより、本格的にギタリスト兼バンドマスターとして参加した。以降アレンジャーとしても長渕を支え続けた盟友であり、戦友である。2004年の『桜島オールナイトコンサート』を以て第一線のステージから離れたものの、サウンド・ディレクター(音響監督)として幾度となくツアーに携わってきた。ギタリストとして長渕とステージで共演するのは2009年の『ACOUSTIC LIVE 30th Anniversary』にゲスト出演して以来、実に6年ぶりとなる。そんな長渕を支える2人の名ギタリストで贈るのは「鶴になった父ちゃん」。長渕の父が旅立ったとき書かれた曲である。想えば、笛吹と同時期に長渕バンドのリード・ギターを務めた矢島賢が今年4月に亡くなった。デビューの頃と、そして桜島オールナイトでもコーラスとして参加した高橋ジャッキー香代子も2013年に亡くなっている。この日、言及したわけではないが、笛吹の優しく伸びやかギターソロを聴きながら、そんなことを想い出す。夜空に何本もの光の筋が舞い、曇り空ながらも、夏の夜空にオリオン座がまばゆく光っていた。

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提供:日刊スポーツ新聞社

ワンマンライブを超えた“巨大野外フェス”

 今回のライブは、大自然に囲まれた立地と、そのスケールの大きさからワンマン・ライブを超えた国内最大級の巨大野外フェスの様相である。先述の『長渕食堂』をはじめ、会場を取り囲むように全国のご当地名店からB級グルメ、120店舗にもおよぶフードエリアが並び、その前、指定ブロック席後方には広大なフリーエリアが広がる。なだらかな傾斜になっているこのエリアは、椅子やレジャーシートも使用可能となっており、ここに寝そべって、会場の全景を眺めながら長渕の歌を聴くのも格別。むしろこの桁外れなスケールを味わうには、ここから眺めるのが一番だった。普段より、長渕本人が会場の隅から隅までチェックする国内最高峰の音響は、この尋常じゃない規模でも存分に発揮されている。フリーエリア後方にいても、歌はもちろん、バンドサウンドに埋もれることなくアコースティックギターのアルペジオの一本一本の弦の音まで鮮明に聴き取ることが出来る。

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