長渕剛の富士山麓ライブはいかにして“伝説”となったかーー入場から朝日が昇るまでを徹底レポート

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提供:日刊スポーツ新聞社

バンド、弾き語り、懐かしい歌、濃厚な<1部>

 午後8時38分、流れていたBGMが突如止み、照明が消えると、夜空に花火が上がる。花火大会さながらのスケール感。そして、地元団体による和太鼓と神輿が客席とステージの間を練り歩き、オープニングを飾った。すると、上空には1機のヘリが低空飛行をしながら会場を見回すように、煽るように何周も旋回する。「あれに剛が乗っている」、会場にいる誰もがそう思ったとき、ステージ下手後方に着陸。日米混合バンドのメンバーを従え、ギターを抱えた長渕が降り立った。湧き上がる「剛コール」……、のはずが、映画のワンシーンのような登場とモニター越しに映し出される長渕の姿からみなぎる気迫に度肝を抜かれ、コールすら忘れてしまうほど唖然とする会場。

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提供:日刊スポーツ新聞社

 無言でステージに仁王立ちする長渕。会場を見渡し、客席に向かってゆっくり指さすと、深く息を吸い込む。「ウォホホッ、」の野太い一声、「JAPANーーーーー!!」一斉に襲いかかる音の洪水。カウントも合図もない、一糸乱れぬタイミングだ。ステージから一気に放たれる音と閃光を受けて、一斉に突き上げられる10万人の拳と歓声。これから長くなるであろう夜は「JAPAN」で口火が切られた。同曲は1991年、全編LAで現地ミュージシャンとともにレコーディングされたアルバムのタイトル曲であり、湾岸戦争の情景を歌った歌だ。あれから24年、幾度となく歌われてきた。そしてこの日、日米混合バンドで日本一の富士の麓で演奏する、それは、常に「日本の誇り」を掲げてきた長渕のひとつの完成形でもあるだろう。

 重厚なリズムの「GO STRAGHT」、原曲よりテンポを落としたことにより、軽快なメロディーが際立つ「SHA-LA-LA」へと続く。久々のナンバー「ひまわり」では大きくそびえ立つLEDビジョン全面がひまわり畑になった。

 「懐かしい歌を」と紹介したのは「裸足のまんまで」。〈俺は俺を信じてやる〉と歌い上げたあと、「俺は君を信じて、君は俺を信じて、ここまでやって来れたんだよねぇ!」と叫んだ。長渕ギターの真髄、多くのギターキッズを虜にした高速スリーフィンガー。〈夏もそろそろ終わりねと君が言う~〉8月の終わりに富士の麓で聴く「夏祭り」は絶品である。

 バンドは昨年のアリーナツアー『ARENA TOUR 2014 ALLTIME BEST』と同じメンバー。ザ・フーのツアー参加のため、前回のホールツアーではやむを得ず不参加となったローレン・ゴールド(Key)がいる。「泣いてチンピラ」で「アメリカから連れてきたマブダチ」と長渕が紹介すると、ハーモニカとオルガンの激しいバトルが始まる。「もっとこい、もっとこい」と煽るように吹き狂う長渕のハーモニカに、必死に喰らいついていくローレン。ソロ・アーティストとサポート・キーボーディストでもなければ、日本人とアメリカ人でもない、同じ、いちミュージシャン同士としての真剣勝負だ。

 1部のラストとなったのは「勇次」。10万人のクラッカーが鳴らされる。85年のリリース以来、かかさずライブで歌われてきた曲。長渕の人生において影響を与えた実在する友人の歌だ。終盤「信頼、信頼、信頼、……」何度も何度も噛みしめるように口にする。涙ながら「勇次が教えてくれた“信頼”を大事に生きてきた」アドリブのメッセージを集まった観衆への感謝の言葉に変える。「おまえらが主役だーーー!」ぼろぼろに男泣きしながらの「勇次」は20分に渡った。

 ツアーファイナルのラストを想わせる光景の中、新旧織りまぜた楽曲をバンドサウンドと弾き語り、両方の魅力を存分に魅せつけた1部は幕を閉じた。時刻は23時半になろうとしていた。

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