ROCK IN JAPAN FES.はなぜ拡大し続ける? 「ロック」概念の変化を通してレジーが考察

魂が磨かれる場所としての『RIJF』、ミュージシャンの創意工夫

 ロックフェスの歴史は、普段のライブとは異なる環境の中で苦闘するミュージシャンの歴史でもある。『RIJF』においても2000年のHUSKING BEEやKING BROTHERS、2002年のBOOM BOOM SATELLITESやBUMP OF CHICKENが終演後に自らのステージがしっくりいかなかったことを悔いている(いずれも当時のロッキング・オン・ジャパンより)。最近ではボールズの山本剛義が昨年初出演した『RIJF』について「全然自分が思い描いていた感じと違った。他のアーティストに比べてお客さんを全然満足させられなかった」と述べており、その経験がバンドにとって新境地となるアルバム『SEASON』を生み出す原動力になったと明らかにしている(「レジーのブログ」でのインタビューより http://blog.livedoor.jp/regista13/archives/1031039863.html)。

 山本はそのインタビューの中で「歌を聴きに来ているわけじゃなくて、明らかにフェスそのものを楽しみに来ている人がたくさんいた」という発言をしているが、「自分たちの熱心なファン」と「フェスの空気をなんとなく楽しめれば満足な層」が混在する独特の雰囲気の中でやりたいことをどうやって提示するかというのは出演者の腕の見せどころでもある。たとえば先日のワンマンで見せたメロウな側面を封印してわかりやすくアッパーなセットリストで臨んだShiggy Jr.や「知らない曲でもいい感じにノっておけばOK!」というメッセージを繰り返し発していたtofubeatsは、「皆で盛り上がりたい」というフェス特有のムードと正面から向き合っていた。クリープハイプは東京スカパラダイスオーケストラをステージに呼び込んで「ルパン三世’78(スカパラのナンバー)」「爆音ラブソング(尾崎世界観のボーカルをスカパラがフィーチャー)」だけでなく自身の楽曲である「社会の窓」のスペシャルアレンジを披露することで、ロックフェスという空間が「普通の週末にあるちょっとしたレジャー」ではなく「いつもと違う特別な場所」だということを見せつけているように感じた。また、パスピエは当日のパフォーマンスだけでなく「フェスミックスCD(フェスではあまり演奏しない楽曲を集めた会場限定販売のCD)」という取り組みを通して自分たちの音楽がフェスのみに閉じてしまわないようなチャレンジを行っている。

 「ロックフェス中心に動く日本の音楽シーン」という構造に関する問題提起はすでに各所で出つつあり、それらの意見については是々非々で精査していく必要がある。ただ、確実に言えることは、与えられた環境で自分たちの音楽を何とか届けようとするミュージシャンの姿はどんな場所であれいつも尊いということだ。今年のRIJFに参加した25万人の中に「音楽よりもフェスそのものを楽しみに来た人」が何人含まれていたかはわからないが、ミュージシャンのパフォーマンスを通じてそのうちのほんの数%にでも音楽というエンターテイメントの熱さが伝染していることを心から願う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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