RHYMESTERが示す、プロテストとしての音楽表現 DJ JIN「美しくあろうという気持ちが大切」

「何処までカメラを引けるか試してみたっていうのはある」(宇多丸)

――ちなみに、「Beautiful」の「美しく生きよう いや、美しくあろうと願い続けよう/それが唯一のプロテスト We got to be beautiful!!!!」というラインは、吉田健一が戦後に書いた「戦争に反対する唯一の手段は、 各自の生活を美しくして、それに執着することである」(随筆「長崎」より。初出は57年の「朝日新聞」)という一節の引用ですよね。

宇多丸:その通りです。最初、トラックを聴いてテーマを考えて、「タイトルは〝Beautiful〟でいいかもね」ってなった時に、「そういえば、こういう言葉があるよ」って話をして。そうしたら、Dがリリックにズバリ入れてきたっていう。Dの中でも入れたり外したり、悩んだみたいなんだけど、皆で「絶対、入れた方がいいよ」と言って。

――件の吉田健一の一節は、小西康陽さんも引用していましたね。

宇多丸:そうそう。当然、オレもピチカート経由で知ったんだけど。改めて凄い言葉だなと思って。むしろ、今の時代にこそフィットする。

――その吉田健一の言葉が元になっていると分かったからこそ……深読みかもしれないですけど、戦前的な、戦争を前にした雰囲気のあるアルバムだと思いました。

宇多丸:いやぁん(笑)。今が戦前かどうかは分からないけども、時代の空気への危機感みたいなものが出ているなら、つくり手としては喜ばしいです。

――それによって、先程から話に出ている〝子供〟というキーワードも浮かび上がってくるわけです。今だからこそ、伝えておきたい、と。

Mummy-D:そうだね。それはあるかもしれない。渦中にいると分かんないじゃない、何が正しいか。例えば〝エネルギー問題〟〝防衛問題〟……「分かんねぇよ!」っていうさ。いろんな人のいろんな意見があって。で、今から戦前を振り返って、あの時代は狂っていた、間違っていたって言うわけだけど、渦中のひとたちは「分かんねぇよ!」って思ってたのかもしれないよ。

宇多丸:一方で、今と同じようにイケイケな空気もあっただろうし。そして、段々とそっちが主流になっていったっていう。

Mummy-D:アルバムをつくる上で、そういうことは考えたよね。だから、何が正しいのか分かんないんだけど、「多分、醜いことは違うんじゃないかな」みたいな。そういう直感を言葉にしたいと思ったんだ。

宇多丸:多分、RHYMESTERとしては今まででいちばん引きのカメラで撮ってるアルバムで。渦中に居て、何が正しいか分からないからこそ、何処までカメラを引けるか試してみたっていうのはあるんじゃない? 「今、引けてここまでなんだけど!」って。

――これまでもRHYMESTERの持ち味は〝引きのカメラ〟だったと思いますけどね。こういう時代だからこそ、改めてそれが有効だと考えたということなのではないでしょうか?

宇多丸:そうかもしれないね。無意識ではあるけど。

――〝どっちもどっち〟論みたいな相対主義の悪い部分には陥らないようにしながら、相対主義の良い部分は使っていくという。

宇多丸:このアルバムが『グレイゾーン』から進んだところがあるとしたら、やっぱり、相対主義よりは一歩、先に行っているところかな。やっぱり、『グレイゾーン』は相対主義への退却みたいなところがちょっとあったと思うんで。

――そういう反省があるんですね。

宇多丸:今回は引くだけじゃなくて、一応、答えめいたものも提示してるし。ただ、引きにも限界があるからね。正直、このあと、どんな時代になるかは分からない。

DJ JIN:〝正しい〟って言葉は危険だし、〝美しい〟って言葉は難しい。『Bitter, Sweet & Beautiful』ってタイトルなわけだけども、苦いものと甘いものが混ざるからこそ美味しくなるわけで。そういうふうに、色々な価値観を認め合いながら、美しくあろうという気持ちが大切だって思う。何も「美しくしろ!」って言ってるわけじゃなくて、ちょっとした想いが大切なんだっていうことを伝えられたらいいな。

宇多丸:オレらなんかもうじきにジジイだけど、まさに、DやJINの子供が大人になる頃にどうなってるのかっていうことが心配なんであって。

――いま審議されている安保法案なんかにも関わってくる話ですよね。

宇多丸:いやいや、洒落にならんすわ。

――だから、下の世代と、〝伯父さん〟っていうウエでもなくヨコでもなくナナメから気軽なスタンスで付き合う一方で、父親として直接的に責任や不安も感じていることによって、このアルバムのメッセージが、それこそ、〝リッチ〟になっていると思いました。そして、「The X-Day」の葛藤や「Beautiful」の決意が、「人間交差点」というある種の大衆讃歌に繋がっていくわけですよね。

宇多丸:そうだね。こういうふうになら、世界を肯定できるかなっていう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる