RHYMESTERが語る、日本語ラップが恵まれている理由 宇多丸「自らを問いなおす機会があることはありがたい」

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 RHYMESTERが、通算10枚目のアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』を7月29日に発売した。<美しく生きること>をテーマに掲げた同作には、フィーチャリングアーティストとしてPSGのPUNPEEを迎えたほか、KREVAやSWING-O、BACHLOGICといった面々がプロデュースした楽曲も収録され、いまのRHYMESTERのアティテュードが浮かび上がる新鮮な仕上がりとなっている。2015年、ビクターエンタテインメントへ移籍し、主催レーベル「starplayers Records」を設立したほか、5月10日には初のフェス<人間交差点>を開催するなど、結成26年目を迎えてますます精力的に活動する彼らにとって、同アルバムにはどんな意味合いがあるのか。音楽ライターの磯部涼が切り込む。(編集部)

「〝新しい表現〟を模索した結果、ピアノがメインになっていった」(DJ JIN)

ーーRHYMESTERのディスコグラフィーの中でもかなりコンセプチュアルなアルバムだと感じました。

Mummy-D:うん、今まででいちばんって言っていいんじゃないかな。

ーーそのコンセプトをひと言で表すと、アルバム・タイトルや、アルバムのムードを決定付けているピアノをフィーチャーしたイントロ/インタールードのタイトル等で繰り返し使われている、〝ビューティフル〟という単語があてはまると思うのですが、そのようなコンセプトに至るまでにはどんな経緯があったのでしょうか?

Mummy-D:そうだな……結局、制作にトータルで2年半ぐらいかかっちゃったわけだけど、最初にメンバーで集まってこのアルバムについてのミーティングをした時に、まず、「最近、どんなことを考えてる?」っていうところから話を始めたのね。そうしたら、ちょうど、ヘイト・スピーチが問題になっていた頃で、「あれは嫌だよな!」ってことで意見が一致して。そこから、「みんな、ちょっとした価値観の違いを受け入れられなくなってきている感じがする」「そういうのは窮屈で嫌だよなぁ」って話になって。でも、一方で、何が正しいかってことも言いにくい時代だとも思うんだよね。そもそも、ヘイト・スピーチだって〝正しさ〟を笠に着ているわけであってさ。それに対して、こちらから〝正しさ〟をぶつけても、問題が解決しないんじゃないかと。で、「じゃあ、どうしたらいいんだろう?」って考えた末に、「やっぱり、醜いのはダメだよな」「美しくあろうとすることは大事」「そのぐらいは言ってもいいんじゃない?」っていう結論に何となく辿り着いて。そこから、〝ビューティフル〟って単語が出てきたのかな。

ーー〝ビューティフル〟というコンセプトは、前作『ダーティーサイエンス』(13年)と対になっているとも言えますよね。

Mummy-D:いや、逆の概念ではないんだよ。

宇多丸:〝ビューティフル〟には〝ダーティ〟も包括されてるから。「汚いとされるものへの不寛容に対抗する」っていう意味にも取れる。アルバム・タイトルにもある通り、酸いも甘いも、そして、汚いも含めて美しい、みたいな。

Mummy-D:確かにサウンドとしては逆に行ったようなところもあって、前回があえてノイジーなものだったり、音楽的にあえて間違ったものを狙ったとしたら、今回はメロウネスを中心に据えて、音楽的にも間違ってないものを目指した。グッドミュージック感というか。

宇多丸:あるいは、アダルトな感じというかね。

ーーミーティングをする中で、メッセージは〝ビューティフル〟、サウンドは〝アダルト〟という方向性が決まっていった?

宇多丸:結果的にそっちに完全に行ったよね。移籍が決まったこともあって、途中、迷ったりもしたんだけど。「移籍第一弾がそんなイレギュラーなタマで良いのか?」とか。

ーーイレギュラーというのは?

宇多丸:やっぱり、リスナーが期待するだろう〝RHYMESTERっぽさ〟ってあるじゃない。今回のアルバムの収録曲で言うと「マイクロフォン」とかさ。

ーー前回のインタビュー(RHYMESTERは今のスタイルをどう掴みとったか?「やっぱり、オレらはライヴ・バンドなんだ」)で話した、〝エモい〟表現みたいなことでしょうか?

宇多丸:そうだね。『人間交差点/Still Changing』はそれに準ずるようなところもあって、あのシングルが結構好評だったことでカムバックのイメージは打ち出せたので、アルバムは振り切っても大丈夫だろうと。

ーーただ、「人間交差点」も「Still Changing」もアルバムの流れで聴くとまた印象が違いました。

宇多丸:だから、あの2曲が〝RHYMESTERっぽさ〟と今回の〝イレギュラーさ〟の橋渡し役になっているのかな。

ーーちなみに、サウンドに関しては先程も言ったようにピアノが印象的ですけど、Dさんは『ダーティサイエンス』収録曲「It’s A New Day」に関して、リリース当時、「新しいアプローチ」「あんなキレイなピアノ使ってる曲なんかやったことなかった」「『黒っぽくない』というか。俺らはやっぱ、どこかでファンク臭とかソウル臭がしちゃうんだけど……その当時、『白い』モノに興味があったんだよね」( http://amebreak.ameba.jp/interview/2014/09/005191.html )と語っていました。

Mummy-D:今回、「ピアノ中心で行こう」みたいなことは意識していなかったものの、改めて考えてみたら、確かに多いね。「フットステップス・イン・ザ・ダーク」もそうだし、「The X-Day」でも使ってるか。

 昔、RHYMESTERには、曲にキーボードが全然入ってない時期があってさ。ホーンとギターばっかりっていう。でも、ヒップホップの表現の幅も広がってきて、ラップもエモーションみたいなものを開放していこうっていう流れになって。で、そういうことをやろうとした時にピアノっていうのは、やっぱり、ぴったりなんだよね。下手に使うと危ないんだけど、勇気を持ってピアノだけをバックにしたこともあったし。

ーー『ダーティサイエンス』と本作の間にリリースされたベスト・アルバム『The R~The Best of RHYMESTER 2009-2014』(14年)には、「It’s A New Day」と「ちょうどいい」のピアノ・バージョンが収録されていましたよね。ホーンが勇ましい〝アツさ〟を表現するのに適しているとしたら、ピアノはそれとは対照的に繊細な〝エモさ〟を表現するのに適しているといったところでしょうか。

Mummy-D:そうだね。ホーンもエモーショナルな楽器ではあるんだけど、ピアノとは感情の種類が違う。

宇多丸:ピアノは流麗さを表現するのにも適してるよね。

ーー「人間交差点」がホーンとオルガンをメインにしているのも、宇多さんの「(同曲が)〝RHYMESTERっぽさ〟と今回の〝イレギュラーさ〟の橋渡し役になっている」という説明を裏付けているような。

DJ JIN:アルバムをつくる上で、〝RHEYMESTERならではの表現〟とか〝他のアーティストがやってない表現〟とか、あるいは、〝新しい表現〟みたいなことを模索した結果、ピアノがメインになっていったってことなのかな。要はフレッシュというか。いわゆるミュージシャン・シップみたいなものを取り入れてトラックをつくるっていう試みはこれまでもやってきたけど、今回はそれをまたさらに違う方向でやれたと思うし。

ーー身近にSWING-Oというアーティストがいたからこそ、というのもあるんじゃないですか?

DJ JIN:もちろん、それもあるね。SWING-Oっていうキーボーディストは、ピアノでリッチかつ情感豊かに演奏出来る人で、彼とのセッションから膨らんでいった部分も大きい。

ーー〝リッチ〟って表現、いいですね。今回のアルバムのイメージを言い表す言葉として、〝ビューティフル〟もそうだし、〝エモーショナル〟もそうだけど、〝リッチ〟もしっくりくる。

宇多丸:オレ、最近、〝豊か〟って表現、超便利だなと思って評論とかでよく使っちゃうの。いろんなものが包摂されてるでしょう。『Bitter, Sweet & Beautiful』っていうタイトルにしても、並んでいる3つの単語をひと言でまとめるとしたら、それは、〝リッチ〟ってことになるのかもしれない。

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