乃木坂46の最新シングルを深掘り分析 “主人公”生駒里奈と“ヒロイン”堀未央奈の現在地とは?

多種多様なカップリングがシングルを彩る

 今回のシングルは、通常全タイプのカップリング曲の合計が6曲となるところ、タイアップの関係で7曲といつもより1曲多く収録されている。前作11thシングル「命は美しい」では表題曲以外で選抜メンバー全員が揃って歌っている曲がないという珍しいことが起きていたが、それだけソロ曲やユニット曲に対する需要や重要性が高まっているということだろう。今回のカップリングもソロ曲や異なるタイプのユニット曲が充実している。

 全タイプ共通カップリングとなったのは、西野七瀬のソロ曲「もう少しの夢」。アルバムから数えると自身にとって3作連続3曲目のソロ楽曲となった同曲は、主人公を演じるドラマ「初森ベマーズ」のエンディングテーマとなっている。ソロ楽曲は西野のほか、生駒、生田といったセンター経験者も歌っているものの、2曲以上歌唱しているのは西野七瀬だけだ。彼女の持つ憂いのある歌声が好きだという意見はファンの中でも多く、その歌唱力を活かすべく、西野のソロ曲に重点を置いてきているのだろう。

 これまでの「ひとりよがり」「ごめんね、ずっと…」は恋人との別離と再出発が大きなテーマのとことん切ないバラードといったところだった。今回の「もう少しの夢」は西野七瀬の切なさを楽曲に残しつつ、詞からはドラマの内容を思わせる、諦めずひたむきに挑戦する彼女を想起させる。また映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』で西野についてクローズアップされているのは、上京と家族との別れだ。映画の内容を踏まえて彼女の3曲のソロ曲を聴いてみると、故郷の家族を離れアイドルとして挑戦する彼女の想いを感じとることができるように思う。

 「魚たちのLOVE SONG」は白石麻衣、橋本奈々未、高山一実、深川麻衣の大人メンバー4人によるユニットだ。白石、橋本、松村、高山を中心とした大人メンバーユニットはこれまで、「偶然を言い訳にして」「でこぴん」「その先の出口」「革命の馬」「立ち直り中」とメンバーを増やしたり、減らしたりしながら定期的に組まれてきた。そして今回の「魚たちのLOVE SONG」では「でこぴん」メンバーから松村が抜けた4人、つまり「渋谷ブルース」を演奏する際のWHITE HIGHのメンバーとなっている。クラシックギターが印象的なこの曲はAメロとBメロの明暗の使い分けがクセになる一曲だ。前述の西野七瀬がソロ楽曲に力を入れているのと対照的に、白石麻衣は初期から一貫してユニット曲を歌っており、大人メンバーユニット曲以外にも「せっかちなかたつむり」「コウモリよ」などほぼ毎回自身が加わるユニット曲が収録されており、ここに売り出し方の違いが見られる。

 そして10thシングルのペアPVより登場した生田絵梨花と松村沙友理によるユニット「からあげ姉妹」がついに「無表情」で音源化。普段の2人と一変して無表情かつシュールな世界観で人気を博すこのユニットは、これまでポストロックのような退廃的な雰囲気が漂う「食物連鎖」と、英ロックバンドThe Stone Rosesを思わせる「サイダー」といった、これまでの乃木坂46になかった楽曲をPVにて次々と世に送り出してきた。

 しかしこの「無表情」はそんなファンの期待を、読めない表情の裏側であざ笑うかのような予想外のキラキラした恋愛の曲だった。心躍る8ビートに乗ったベルの音と、生田と松村の歌声のマッチングがなかなか面白い。アニメ声でかわいらしく歌う松村と、ストレートに歌い上げる生田のハーモニーはメロディーにもはまっており、聴けば聴くほどクセになる。秋元康は「この娘にこの曲を歌わせるのか…」というチョイスをあえてやってくるプロデューサーであるが、果たしてこの曲は松村の心境を書いた詞なのか、あるいは真面目で恋愛下手そうな雰囲気の漂う生田のストーリーなのか。

 全7曲のなかで最後に解禁されたのが「制服を脱いでサヨナラを…」である。前作11thシングルに収録された「あらかじめ語られるロマンス」でダブルセンターを務め、ファン人気も高く、コンビで運営から売り出されることの多い“推され組”である星野みなみと齋藤飛鳥による初のユニット曲だ。「私、起きる。」「なぞの落書き」「あらかじめ語られるロマンス」の流れを汲む、この年少ユニットによる楽曲は、高校3年生になり、いつまでも子ども扱いされることに拒否感を示してきた星野みなみと、昔から考え方が同世代とは異なり早く大人になりたいと常々語っている齋藤飛鳥が、若者から大人へのステップを歌った曲となっている。普段から声がかわいいと言われる2人ではあるが、今回は楽曲全編を通して、その声に掛かったエフェクトが目立つ。あえてそのような作りにしているのは、自分たちの可愛さに頼らず成長していくということの表れなのかもしれない。今後も何らかの形で一緒に活動することの多くなるであろうこの2人が、どのように成長するのかワクワクさせてくれる1曲だ。

そして、選抜メンバーが表題曲以外で揃って歌っているのが、セブンイレブン限定verに収録された「羽根の記憶」だ。直前まで明かされなかった本曲の作曲を「制服のマネキン」「君の名は希望」でお馴染みの杉山勝彦氏が、編曲を杉山氏と有木竜郎氏が担当している。そう言われるとピンと来る方もいるかもしれないが、この曲は2人が同一クレジットで手掛けた「君の名は希望」に通ずる部分がいくつか見受けられる。

 まずは楽曲の構成。実はどちらの曲もAメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Cメロ→大サビ→Dメロという構成になっている。「君の名は希望」で採用されたこの楽曲構成はJ-POPであまり見られないもので注目されていたことを考えると、今回「羽根の記憶」でここまで同じような構成にしたのは確信的なものではないだろうか。その他にもドラムのリズムパターンやストリングスの使い方、大サビでの盛り上げ方など「君の名は希望」を感じさせる部分は多い。10年後の自分の将来を想像するという内容の詞は、鳥居坂46の始動が発表され、ライバルグループのAKB48が10周年を迎えた今、秋元康と杉山勝彦からメンバーに送るメッセージソングなのかもしれない。

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