高橋優が5年間の活動を振り返る「ずっと“笑う約束”をいろんな人たちと交わそうとしてきた」

「“これぐらいでいいんだよ”と言ってるところに甘んじてしまうのが、一番恐ろしい世界」

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--DISC2に移って、1曲目が「未だ見ぬ星座」。これは横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリー『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』の主題歌になってます。

高橋:これも、野球というところからきっかけをいただいて書いてはいるんですけど。『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』というドキュメンタリー・フィルムを見させてもらって、正直に感じたことは、言い知れぬ危機感だったんですよね。

--危機感というのは?

高橋:プロ野球をやってる方々って、いつ二軍に落とされるかわからない危機感と戦いながら、ファンから罵声を浴びながら、一生懸命頑張って、それでも渾身の一振りで空振りしたりもする。150キロの球が飛んできたら、0.4秒の戦いなんですって。0.4秒で自分の人生が決められちゃう。その瞬間のために何か月も体を作って、それはもう自分との戦いじゃないですか。それがあとで結果となって、数字になって、誰かと比べられたりする。でも恐ろしいのは、数字で比べられるよりも、まあなんとなくの中ぐらいのぬるま湯で、「これぐらいでいいんだよ」と言ってるところに甘んじてしまうのが、一番恐ろしい世界だと思ったんですね。僕は昔、アルバイト時代に経験したことがあるんですけど、お仕事って、「ま、これぐらいでいいっしょ」で終われるんですよ。それでもほめられたりするんですよ。「このぐらいやっとけばいいんだよね。ちょろいもんだよ」って。でもそれで終われる人生って、超怖いと思ったんですよ。

--わかります。

高橋:僕も、好きで音楽業界に入って来たくせに、「この程度の曲でいいでしょ」とか思ってたら、万死に値するということを、『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』を見て思って、何回も泣いたんですよ。5回は泣きました。僕、野球のルールもあまり知らないんですけど、それに命をかけてやっている男の人たちの生き様に、人として学ぶ部分がすごくたくさんあったんですよ。音楽をやる人も、スポーツ選手、次の時代を牽引していくつもりでやらなきゃいけない。そのために責任を伴うし、膨大な努力が必要だし、「無理に決まってるじゃん」とあざ笑われることを覚悟の上でやらなきゃいけない。

--ですね。

高橋:今ある星座をなぞることは誰にでもできる。でも満天の星空の中に新しい星座をみつけて、それに自分の名前をつけるようなことを、僕らはやろうとしてる。まだ誰も見たことのない景色を、自分の理想をかなえることで、誰かに見せてあげたいと思っている人たちが、努力してるんじゃないかと思ったんですよ。それは音楽とかスポーツの垣根を超えてるなと思ったし、僕自身も「高橋優には無理でしょ」と思われてるかもしれないけど、今はまだない新しいスタンダードを自分が作れる日が来るかもしれない。それを信じて歩みたいという決意の歌です。

--「リーマンズロック」は、ライブではやっていて、今回CD初収録の楽曲ですけども。「未だ見ぬ星座」のテーマに通じるところがありますよね。働きながら夢を追う人を励ます曲なので。

高橋:「リーマンズロック」のほうが、弱気ですよね。これはもうちょっと、くじけそうな人のための歌だと思ってます。僕、上京して最初の頃に、少しお世話になっていたある会社のスタッフの方が仕事を辞めるという状況になったことがあって。その辞めぎわに、僕のことを呼び出して、仕事論みたいなことを語られたんですよ。何を語るかと思ったら、社会人の辛さとか、お金を稼ぐことの苦しさで。「アーティストの前でこういう話をしていいかどうかわかんないけどね」って。絶対駄目だろって思いましたけど(笑)。

--笑っちゃいけないけど(笑)。絶対駄目ですよ。

高橋:僕はそれに対して何かしなきゃいけない。アドバイスはできるはずがないから、歌うしかない。「俺みたいな奴がゴマンといることを優くん、忘れないでね」と最後に言われた時に、この曲を書こうと思ったんですよ。

--その話を聞くと、全然聴こえ方が変わりました。この曲の。

高橋:「やりたいことができてる人間がすべてじゃないんだよ」とか言われましたけど、でもそういう人たちの人生が失敗か?というと、僕はそうじゃないと思う。成功か失敗かは自分で決めることができるはずだと思って、その人は今もどこかで頑張ってるはずだし、俺みたいな奴はゴマンといるといった人たちも、それぞれに今の思いがあって、やってるんだとしたら、それはそれでいい人生かもしれないじゃないですか。思い描いたものではないかもしれないけど、喰えて、寝る場所があって、生きてるんだとしたら、それでもいいじゃないか。その上で「いつかかなえたい夢の話をしようよ」って。きれいごとと取られるかもしれないけど、僕はそう歌いたかったんですよ。

--はい。

高橋:「未だ見ぬ星座」は、もっと純粋に夢を描いてるんですけど、「リーマンズロック」はもっと、崖っぷちみたいなところがあるんですよ。作った自分としては。

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