Flower、7人全員が主役級ゆえの「懐の深さ」 単独ツアーで描いた濃密な物語とは?

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 今回のライブでとりわけ印象深いもののひとつに、ZONEのカバー「secret base~君がくれたもの~」がある。鷲尾と市來の二人のみでのパフォーマンスとなった同曲だが、互いの存在を確認しあうように歌われるなかで、この耳馴染みのある楽曲が一対一の関係をつづったものであることがこれまでになく鮮明に突きつけられてくる。これは現在のこの二人だからこそ表現しえたバランスなのだろう。今回のFlowerのカバー曲として、この作品が選ばれたことの意義が強く感じ取れた。

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 E-girlsにおいてもそうだが、Flowerにとって過去の名曲のカバーは、広い聴取層に開かれた回路をつくるためのものとして効果的に機能している。ライブ後半では鷲尾による「SWEET MEMORIES」や以前からのレパートリーとしてある「恋人がサンタクロース」、映画『ANNIE/アニー』の日本語吹替版テーマソング「TOMORROW~しあわせの法則~」といったカバー曲の割合が多くなる。それは幅広い観衆に対して開かれると同時に、「Flower Theater」の閉じた物語世界からもやや開かれ、ステージとオーディエンスとの仕切りを取り払うような流れでもあった。序盤の「花時計~Party’s on!~」からシングル曲が連なっていく展開の中にみられた、額縁舞台の内側の物語を色濃く描くようなあり方よりも、一段「ライブ」として開かれた瞬間だったといえるだろう。これは、Flowerの単独ライブが描く世界が、箱庭的な物語世界とライブ感を強めた開かれた世界、どちらの顔も見せることができるという可能性を示唆するものだ。

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 そしてアンコールはさらに彼女たちの等身大のキャリアを見せるように、初期楽曲を連ねてパフォーマンスする。そして、Flowerの歌詞世界を担う重要人物・小竹正人が現行7人体制になった今の彼女たちに向けて書いた「七色キャンドル」で、デビューからこのツアーまでの歴史をつなぎ、公演を締めくくった。Flower初の単独ツアーは、彼女たちが物語を紡ぐ「Flower Theater」の第一歩である。箱庭的な物語の強度をさらに高めていくのか、額縁を外して「ライブ」としての側面を強調するのか、あるいはそれらをゆるやかにつないでいくのか。いずれの方向を目指すにしても、彼女たちの「劇場」がさらに精緻なものになっていくのを楽しみにしたい。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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