海外と日本のバンドの「ドラムの違い」とは? 元アマチュアドラマー兵庫慎司が考える

 そろそろ、おまえは何を基準にしてドラムがいいとかよくないとか判断してんだ、何様なんだ、と言われそうな気がしてきた。言われてもしょうがない気もしてきた。

 というのもですね。私、このテキストの頭からこの時点までで、「いい」「よくない」という書き方をしていて、「うまい」「下手」とは一度も書いていないのは、必ずしも「うまい」=「いい」ではないからです。

 これを言い出すと「どんな楽器だってそうだよ」という話になってしまうか。でも、たとえば、ロック・バンドのドラマーでも、ジャズとかフュージョンとかの基礎からしっかり学んでいて、ルーディメンツとかみっちり練習していて、技術的にはもう大変に高度なことができる、でもビートが気持ちよくない、ということもある。逆に、スティックの二度打ち(一度のスティックの振り下ろしでスネアを二度打つ奏法。これを細かく左右の手で連打するとドラムロールになります)もキックのダブルアクション(ドドッと踏むことです)も、ヘタするとハイハットをきれいに16ビートで刻むことすらできない、ただキックとスネアを♪ドンタンドンタンと鳴らすことしかできない、なのにすんげえかっこいい、ということもある。

 というか、先に僕が名前を挙げたいいドラマーはみんなそれだ。いや、細かいテクがないってことではなくて、「まず♪ドンタンドンタンの時点ですばらしい」ことが前提になっている、ということだ。

 ハイハットを8分音符で打ちながら、キックとスネアを「♪ドンタンドンタン」って鳴らすこと自体は簡単だ。ドラム未経験者でもできる。ただ、それが気持ちいいかよくないかは、もう感覚の問題でしかない。どうすれば気持ちいいビートを叩けるのかは、正直、私もわかりません。どう音楽と向き合ってきたのかとか、どう生きてきたのかとか、つきつめればそういう問題まで行き着くのでは、という気もする。

 そしてまた、その「気持ちいい」の基準もよくわからない、自分でも。タメが気持ちいいドラマーもいれば、単にモタってるとしか思えないドラマーもいる。前につっこみ気味なビートで、「ヴォーカル、歌いづらそうだな」と思わせるドラマーもいれば、バンドの勢いを牽引してるなあと思わせるドラマーもいる。リズムマシンのようなジャストなビートでも、「タイトだなあ、いいなあ」という人もいれば「打ち込みみたいでつまんない」という人もいる。いや、その打ち込みですら、今はそれこそ何十分の1秒単位でタメたり前につっこませたりできるわけで……そう考えてみると、打ち込みでリズムを作るエキスパートの人の方が、その「♪ドンタンドンタンの気持ちよさ」を科学的に証明できるのかもしれない。「スネアは30分の1秒タメて、キックは45分の1秒前につっこませると、このジャンルにおいては最適な心地よさを持つリズムになるのです」とか。誰かいないだろうか、そういう解説をしてくれる人。

 さらに言ってしまうと──これはあくまでも私個人の感想ですが、そして一部に思いっきり反感買いそうですが、まあいいや。80年代~90年代に、ドラム雑誌でしょっちゅう特集が組まれていたような海外の名ドラマーの来日公演を観て、「ええっ!? 全然よくないじゃん!」と驚いた経験、私、あります。いや、確かにうまい。手も足も信じられないような動きをしている。でもビート自体が全然気持ちよくないし、音もちっちゃい。そんなにそっと叩くなよ! スネア打つ時は左腕は耳の後ろまで振り上げろよ、モトリー・クルーのトミー・リーみたいに! と思うものの、でもその人は、ドラム雑誌とかでは神のように崇められている。ということは、それをいいと思えない俺の方がおかしいのか?と悩んだりしたものです。

 かように、ドラムって本当に不思議な楽器だなあと思う。

 たとえば、ギターがいないバンドやベースがいないバンドと、ドラムだけいないバンドの数を比べてみていただきたい。あきらかにドラムのいないバンドが多い。キーボードがサポートのバンドも多い? あれはデビュー時はいなかったけど「やっぱ鍵盤もほしいよね」ってことになってあとからサポートで入っているケースがほとんどであって、ドラムの場合はデビュー前までいた、あるいはデビュー後も途中までいたんだけど脱退、という例が多いのではないか。

 あと、ドラマーって後任を見つけづらい、ということでもあると思う。おそらくギターやベース以上に。思い出した。ZAZEN BOYSからドラムのアヒト・イナザワが脱退し、松下敦が加入して初めてのライヴを観たことがある。確か新宿ロフトで、複数のバンドが出るイベントだった。ZAZENのステージが終わり、向井秀徳が対バンを観にフロアへ出てきたので、「確かにすごいドラマーだけど、なんであんな忙しい人にしたんですか? スケジュール合わせるの大変でしょ?」と訊いた。当時松下敦は、YUKIやBaffalo Daugtherなどのサポートでひっぱりだこの存在だったので。

 その時の向井秀徳の答え。

「一緒にやりたいと思うようないいドラマーで、ヒマな人なんていないんですよ」

「失礼しました」と言うほかありませんでした。

 ただし、その後、ベースの日向秀和が脱退した時、その後任で「いいベースでヒマだった」吉田一郎を加入させた向井ってすごい、とも思う。自分で自分の言葉を覆している。鍛えまくっていいベーシストに育てていった、という側面も大きいのだろうが。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる