ミオヤマザキ、感覚ピエロ、R指定……ネガティブな歌詞表現を昇華するバンドたち

ナルシズム、狂気、中二病……ヴィジュアル系の世界

DIR EN GREY

 堕天使、薔薇、十字架、生と死……良くも悪くも“中二病”ともいわれるナルシズムを色濃く演出するのがヴィジュアル系シーンである。元来『ジキル博士とハイド氏』や『ジキルとハイド』といったゴシック・ロマンス小説をベースとして生まれたゴシック・ロックの影響下が強く、幻想的、耽美的ともいえる徹底した非現実的世界観を構築してきた。そんなシーンの中でも特に異彩を放ち、独自の道を切り開いたのはDIR EN GREYだろう。痛み、苦しみ、憎しみ……感情を叩きつけるような言葉と狂気性を帯びたサウンドは、単純にジャンルで括るのは難しい。また、海外進出するには英語で歌わなければならない、という既成概念を崩したのも、彼らの功績のひとつだろう。

2011年のパリ公演。「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」という、日本人でも難しく感じそうな言葉を大合唱するフランスのオーディエンス。

Plastic Tree

 彼らとは対象的に、陰鬱な退廃美を醸し出すのはPlastic Treeである。幻想文学的な文体、儚さを感じさせる中毒性の高いボーカルと、シューゲイザーやドリーム・ポップといったイギリスのサウンドをいちはやく取り入れたサウンドは、シーンにおいて孤高感を漂わせる。孤独から生まれる壮絶なる破壊衝動がDIR EN GREYなら、からっぽな世界の孤独感「誰にも知られずに消えてなくなりたい」のが、Plastic Treeだろう。

3拍子と文学的言葉遊びの絡み方が絶妙な「影絵」

R指定

【公式】R指定『病ンデル彼女』PVSPOT

 そんなダークな印象の強い同シーンだが、反面、きらびやかなバンドも現れ、多様化も目立っている。中でも独特の彩りで歪んだ病的さを演出しているのが、R指定である。「病ンデル彼女」「青春はリストカット」「毒盛る」など、いかにもな楽曲タイトルが目立つが、メロディーはキャッチーで「死にたい」とリズミカルに歌っているのが印象的だ。ロック、ポップス、歌謡曲といった様々な要素を融合し、高いアレンジ力でおいしいリフを巧みに組み立てたバンドアンサンブルは、一聴の価値があるといえる。「重い、痛い」とも言われるこの分野に、ある種の親しみやすさを持ち込んでしまったそのセンスは、特筆すべきだろう。

独自の視点で表現するバンドたち

 ひとの心に訴える歌詞を書こうとすると、どうしても直接的な表現、インパクトのある言葉になりがちであるが、少し視点を変えて独自の表現を紡ぐバンドもいる。ひとつのことを伝えるのに、十人十色の表現方法があるというのも日本語の深いところである。

arrival art

arrival art 『独り舞台』

 人との出会い、交わされる言葉……苦悩や渋難というほどでもないが、ふとした日常に思うこと、誰もが抱えるような葛藤、揺れ動く心情変化を淡々と紡ぎ出すバンドが、arrival artだ。決してありきたりではない言葉の数々は、優しく語りかけるように、時にストレートに聴くもの心の隙間にスッと入ってくるのである。3ピースのストレートなギターロックながらも、クリーンサウンドを主としたギターサウンドだけで静と動を操るサウンドメイクは圧巻である。

BUGY CRAXONE

BUGY CRAXONE「ナポリタン・レモネード・ウィー アー ハッピー」Music Video

 メジャー時代はアルバム『歪んだ青と吐けない感情の底』に見られるような、痛切なメッセージと感情を吐き捨てるようなバンドだった。鈴木由紀子の歌は、うかうかしていると刺されるかと思うくらい鬼気迫るものがあった。しかし、インディーズに活動を移し、いつからか肩の力の抜けたボーカルスタイルに変わっていった。楽曲タイトルも歌詞も、漢字を極力使わず、平仮名、カタカナになり、誰もが口ずさめる簡単な言葉選びをするようになった。「ナポリタン、レモネード」といったなんの変哲もないように思える言葉も、素朴な残りもので作る料理、酸っぱい果物で作る甘い飲み物、といったささやかな日常で作り出せる小さなしあわせだ。そこには、音楽シーンの表と裏を見てきたからこそ、音楽を奏でることの喜びを見いだしたバンドならではの達観した価値観があるのではないか。字詰めの多い日本語ロックの中では珍しい、少ない言葉選びによるメロディーが、絡み合うギターサウンドとともにイギリスでもアメリカでもない、アイリッシュ〜ケルティック・パンクに通ずる独特のバンドサウンドを構築している。

今注目される、“リリック・ビデオ”という存在

 近年世界的に広まっていているのが、音楽と歌詞で構成される、“Lyric Video(リリック・ビデオ)”である。フォントやタイポグラフィといったデザイン主体で、元はグレイトフル・デッドのマーケティングさながら、ファンによる自主制作で広まったものである。海外では動画サイトにおけるプロモーションの主力として、ミュージックビデオとは別に導入されることも多いが、そうした映像はここ最近日本においても増えてきている。

MERRY

独特の言葉選びが文字による強烈なインパクトを与え、レトロなデザインがこのバンドの色を強く打ち出している、MERRY「千代田線デモクラシー」

ハルカトミユキ

リリック・ビデオとミュージック・ビデオの間にあるような、ハルカトミユキ「春の雨」。断片的な言葉の羅列ながらも“刺さる”の日本語の美しさを感じる。

 ここ数年で音楽の聴き方は大きく変わっている。日本でも本格的に定額制音楽配信サービスの機運が高まった。CDだってパソコンに取り込んだら、すぐにラックに仕舞ってしまうことも少なくない。お気に入りのアーティストや楽曲を、歌詞カードを眺めながらじっくり聴くという行為は減っているのかもしれないが、一方で リリック・ビデオのように、歌詞を楽しむ新たな方法も提示されている。そんな時代だからこそ、音楽における詞(ことば)の重要性は高まっているのかもしれない。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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