アジカン&PHONO TONESのドラマー、伊地知潔の縦横自在なドラムプレイを分析

 一方、PHONO TONESはといえば、アジカンとは違って16を意識した横ノリの曲が多いのが基本。また、今回はGrateful DeadやPhishのファンであることを公言しているペダルスチール担当の宮下広輔が作曲面をリードしたこともあって、ジャムバンド的な長尺曲が増えているのも特徴だ。とはいえ、セッションによって自由に作られたという感じではなく、曲構成は綿密に練られていて、伊地知は一曲の中で同じリフに対して複数のリズムパターンを見事に叩き分けている。

 一番顕著なのは、アルバムの中でも最も長尺の8分半に及ぶ大曲“at the break of dawn”で、この曲で伊地知は他の楽器と絡み合いながら、4つ打ち、8ビート、16ビートとリズムパターンを使い分け、一曲の中で様々な風景、感情を描いていく。実は、こうしたプレイはもともと伊地知の得意とするところでもあって、アジカンで言えば『ファンクラブ』の時期が「複数リズムパターン期」にあたる。それは“ワールドアパート”や“ブルートレイン”といった当時のシングルを聴くだけでもすぐに頷けるはずだ。

 また、フュージョンっぽい要素のある“frankenstein”や“tobira”あたりのファンキーなプレイ、“four”の16を基調とした派手目なプレイもPHONO TONESならでは。さらにミックスに関しても、録り音を重視して、楽器のいい音をストレートに鳴らしたアジカンに対し、シンバルを左右に振ったり、ドラムを奥に配置したりと、所々で細かなミックスの遊びが感じられるのも、PHONO TONESの特徴だと言っていいだろう。

 メインストリームのロックシーンでシンプルな4つ打ち主体のバンドが人気を獲得する一方、インディーシーンではブラックミュージックからの影響を感じさせるファンキーなバンドが増え、さらには現行のエレクトロニックミュージックを消化し、より先鋭的なリズムを志向するバンドも増えつつあるなど、リズムへのアプローチがより重要な意味を持ちつつある昨今。『Wonder Future』と『Along the 134』のリリースが続くこの機会に、日本のロックシーンを牽引し続けるバンドのドラマーによる、縦横自在のプレイをぜひ堪能していただきたい。

(文=金子厚武)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる