“ポップ求道者”HARCOがたどり着いた新境地とは?「川柳が20行ぐらい続くような歌詞が理想」

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「僕の曲は『整理したくなる』エッセンスが入っている」

――歌詞は生活や街など身近なものが描かれていますが、表現はファンタジックなところもあり、短編小説のようだと感じます。

HARCO:短編小説のよう、というのは、まさに目指している方向性なので嬉しいですね。歌の主人公がどこかからどこかへ、旅をしている、移動している様子を描くのが好きなんです。表現的なところを言うと、心象風景よりも、景色など目に見えるものを組み合わせて描くほうが好みかな。あとは、歌詞の1行にできるだけ多くのセンテンスを詰め込みたい。極端な話をすれば、川柳が20行ぐらい続くような歌詞が理想です。

 僕は読書が趣味なんですが、さらっと読めるものよりも、比喩に比喩をかさねていたり、ときにアイロニカルな文体の小説が好きで。とくにジョン・アップダイクやレイモンド・カーヴァーは、庶民のなんてことはない日常と、そのなかで心が移り変わっていく様子を書くのがうまくて、僕もそういう詞を書けたらと思っています。色で言うと、原色じゃなくて、何色とも言い表せられない中間色を出していけたら。

――一方で、代表作の『世界でいちばん頑張ってる君に』は、作詞を山田英治さんがつとめ、ストレートなメッセージ性を持った楽曲です。6月からは同じく山田さんが作詞を担当された「ウェイクアップ!パパ!」が『みんなのうた』で放送されます。作り手として、どんな意識の違いがありますか。

HARCO:CMソングやテレビのテーマソングは完全にモードが違って、いい意味で職業作家という感覚で作っています。『みんなのうた』は10年くらい前から選ばれることを目指して作っていた経緯があって、『Portable Tunes 2』に収録されている「シロクマは、いったりきたり」もそのなかで出来た曲なんです。山田さんはもともと広告代理店のコピーライターで、歌詞にすごく訴求力があって。今回のテーマは「イクメン」なんですけど、僕には書けない種類の歌詞ですね。

――私生活だと、HARCOさんもお子さんが生まれたばかりですが、変化はありますか?

HARCO:生活は変わりましたが、音楽面は変わらないですね。「子どもができたら、曲の感じが変わるよ」とみんなに言われていたのですが、「いやー、そう簡単には」って抗う気持ちになっちゃいますね。いろいろと実験もしてきたので作風によってカラーは違いますが、やっぱり20年近く音楽をやってきて築き上げた作風や軸があるので、そこは変えたくないんです。

――ご自身では、どんな部分が軸になっていると思いますか。

HARCO:不思議な言い方になりますが、僕の曲は「整理したくなる」エッセンスが入っているような気がします。聴いている人が「部屋の掃除がしたくなる」とか「もう一回、勉強がしたくなる」とか「書類をファイリングしてみよう」とか、ちょっと整った気持ちになってもらえると嬉しいですね。

 あと、「どこかノスタルジックな気持ちになる」というのも大事にしているポイントです。恋をしたときの“キュン”じゃなくて、懐かしい風景に出会ったときに胸が締め付けられる感覚が僕はすごく好きで。あれはどうやら、心臓ではなくて、内臓や腸がキュンとしてるらしいですね。比喩表現ではなく、実際に分泌液が少し多く出ているのだとか。いわば内臓疾患ですね(笑)。

――(笑)。先ほど「実験してきた」という話がありましたが、ライブでも工夫されていますよね。例えば『Portable Tunes 2』にも入っている「文房具の音」ではセロハンテープを引き出す音をその場でサンプリングされたり、コーラスを重ねたり。

HARCO:普通に歌いつつも、「あ、これおもしろいね」っていう要素はどこかに持ち込みたいなぁと思っています。例えばマジックを見せられると、大人でも子どもに戻る瞬間がありますよね。そういう作用をライブのなかで起こしたい。僕自身が未だに少年っぽいからかもしれないですね、月を追っかけて自転車を走らせてるような(笑)。今までやったことがないことのひとつとして、いつかパフォーマンスをしながら歌ってみたいと思っていて。シンプルな机の前に座って、何か動作をしながら歌う、一人芝居のようなパフォーマンス。イッセー尾形さんやラーメンズ・小林賢太郎さんなど、スタンダップコメディアンの気概で、手ぶらでステージに立っているのに作品が成り立ってしまう人に憧れますね。

――6月には東名阪でバンド形式でのライブを控えていらっしゃいますが、どんなふうになりそうでしょう。

HARCO:ライブでは榊原大祐くんにドラムをお願いしています。榊原くんはロンドンで10年ぐらいアシッドジャズのシーンで活躍していて、すごくいいグルーヴを持っているんです。彼のドラムが入ることによって曲がどう変わるのか、僕自身も楽しみにしています。

 グッズとしてはリトルプレスが出ます。中身は、今回ジャケット撮影をラオスで敢行したので、まずはその写真のコーナー。それから昨年、好きな本を紹介しながらライブをしていたので、もっと詳しく解説する企画があったり、普段食べているものを撮影したページがあったり。読み物としても充実しているんですが、付録として未発表曲も収録されたライブ盤CDをつけるんです。以前、新曲を必ず発表するマンスリーワンマンライブをしていて、その最終月となった2013年11月17日の模様を収録しています。付録でCDというのは初めての試みなので、ちょっとドキドキしています。

――『ゴマサバ』から約1ヶ月での新作リリースがあり、ワンマンライブがあり……と活発に活動されていますが、今後の予定は?

HARCO:17歳でバンドデビューしてから20年ちょっとやってきて、今年は40歳になる節目の年でもあるので、次の20年はどうしようか、いろいろと考えているところですね。『ゴマサバ』は約5年ぶりのアルバムリリースということで、制作当初はリハビリ感覚もあったんですけど、いろんな人が「名盤だ」と言ってくださって。僕としても今の歌声はすごくしっくりきている実感があって、さらに評価もしていただけるということは、「最高傑作ができた」と言ってもいいんじゃないかなと(笑)……もしそうだとしたら、次の作品は新たな一歩になる。ずっと歌を歌っていきたいので、どう踏み出すのがいいか、考えているところです。

(取材・文=西田友紀)

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HARCO『ゴマサバと夕顔と空心菜』

■リリース情報
『ゴマサバと夕顔と空心菜』
価格:2500円(税別)

<CD収録内容>
01.ゴマサバと夕顔と空心菜
02.カメラは嘘をつかない
03.口笛は春の雨
04.つめたく冷して
05.TIP KHAO
06.電話をかけたら
07.Snow on the Pasta
08.星に耳を澄ませば
09.南極大陸
10.I don't like
11.閉店時間

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HARCO『Portable Tunes 2 -for kids&family-』

『Portable Tunes 2 -for kids&family-』
発売:2015年6月3日
価格:2100円(税別)

<CD収録内容>
01.きょうの選択(NHK Eテレ「0655」おはようソング)
02.ウェイクアップ!パパ!(NHK「みんなのうた」2015年6-7月の放送曲)
03.しまじろうと いこうよ(テレビ東京系列「しまじろうのわお!」オープニング曲)
04.山口さんちのツトム君(「みんなのうた」カバー曲)
05.ネイバーズのうた(Eテレ「ニャンちゅうワールド放送局」)
06.ごりら
07.文房具の音
08.フニクリフニクラ(「みんなのうた」カヴァー曲)
09.よしもと「笑楽校」校歌(吉本興業 笑楽校 校歌)
10.みんな、君だけを待ってる(Eテレ「味楽る!ミミカ」エンディング曲)
11.シロクマは、いったりきたり
12.JAMBALAYA(カーペンターズのカヴァー曲)
13.Twittin' Roll
14.パパママ応援歌
15.オクトパス・クラップ
16.ウェイクアップ!パパ!(カラオケ)

■ライブ情報
アルバムリリース記念・東名阪バンドツアー
『ゴマサバと空心菜と雲呑と烏龍茶』
6月5日(金) 大阪Music Club JANUS
6月7日(日) 名古屋TOKUZO
6月13日(土)吉祥寺Star Pine's Cafe

■オフィシャルサイト
http://www.harcolate.com/

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