石井岳龍監督が語るbloodthirsty butchersとロック、そして映画「シリアスな現実と娯楽を繋ぎたい」

「水野絵梨奈さんは怖いぐらい役に入っちゃって、すぐには抜けれない感じがあった」

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『ソレダケ / that’s it』© 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

ーー今回の作品は役者さん達もすごく面白いですね。『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』での泉谷しげるさん然り、こういった個性的な役者さんはどういった基準で選ぶのでしょう?

石井:泉谷さんは俺が大学一年の19歳のときに撮った8ミリ映画を観て、向こうから電話がかかってきて「お前面白いから一緒に何かやらないか?」って言われました。それはすごく驚いたし、嬉しかったですね。たかだか8ミリ映画撮った若造に自分から連絡をとってきて「一緒にやろう」って、すごく感激するじゃないですか。それでやり始めたのが『狂い咲きサンダーロード』です。そういう経験があったから、オファーするときはいつも、基本的に自分が好きな人や気になる人に「一緒にやりませんか?」って誘う感じですね。今回もまったく同じ感覚で、当初の設定を踏まえたうえで、ロックバンドの経験があるひとにオファーをしました。恵比寿大吉役の渋川清彦さんはドラマーで、ちょっとロカビリーパンクみたいなバンドをやっているんです。すごく面白いバンドで、どっちかっていうとハードコアっぽい感じもある。ボーカルのひとは全裸で歌ってましたからね(笑)。

ーーこの人めちゃめちゃイイ味出してますよね。素晴らしいですよ。この役柄みたいな人、ライブハウスによくいます(笑)。

石井:ははは、いるんだよなぁ。

ーー『爆裂都市』では、ほとんど素人の人達も出ていました。

石井:たまたま爆裂都市はロックバンドの話で、その前のサンダーロードは暴走族の話なので、やっぱりそういう匂いというか、通じるものがあるヤツじゃないとダメだと思うんですよ。今回の映画の千手完役の綾野剛君も、バリバリのロックマンですからね。イケメンでかっこいいんだけど、中身はロックマンです。

ーー水野絵梨奈さんの演技も素晴らしいですね。

石井:彼女は身体能力がすごいので、観ていて気持ちいいですよね。もともとE-girlsのリーダーとしてダンサーをしていたんだけど、いまはより俳優業に専念していきたいと聞いています。彼女は回し蹴りとかのアクションが瞬時に出来るんですよ。立ち姿とかカッコいいし、演技の入り方も尋常じゃない。

ーー主人公の染谷将太君とケンカするシーンはリアルでした。

石井:ふたりとも演技がうまくて素晴らしいです。ただ彼女はちょっと怖いぐらい役に入っちゃって、すぐには抜けれない感じがあった。

ーー昔の役者さんみたいですね。

石井:そうですね。全身全霊でぶつかって行くタイプだから。今回出演した四人の男性は、日本の映画界で最も演技がうまい人達なので、新人で彼らにぶつかって行くのは相当プレッシャーだったと思う。でも、彼らに負けないくらいよくやってくれて、僕も観ていてすごく感動しました。彼女の熱演にはぜひ注目して欲しいです。

「シリアスな現実と娯楽をどうやったら繋ぐことができるのかはひとつのテーマ」

ーー今作は世界観もすごく興味深かったです。“戸籍の無い人間の話”という設定は、どんな発想から生まれたのでしょうか。

石井:最近、自分がもう本当に幽霊になったみたいな気分がしていたんですよね。この世の中を動かしている連中のやっていることがまるでわかんなくて。少し前までは「馬鹿野郎!」って怒ってどうにかなることもあったんだけど、もはや俺がどんなに叫んでも届かないっていうか、違う世界に生きているんじゃないかっていう感覚があったんです。この作品は一種のファンタジーだとは思うんだけど、登場人物は全員、親が居ないヤツなんですね。そういうヤツらって今はいっぱいいるし、男は犯罪者になって女は風俗やるしか無いっていう世界は現然としてあると思う。でも一方で、ものすごく当たり前の世の中が当たり前に存在して動いていて、そういう人達はいないも同然というか、見ないようにされてる。その辺のギャップに対するやりきれない思いが自分の中にすごくあって、それを普遍的に映画で表現できないかと考えた結果、“戸籍のない人間”という設定を思いつきました。

ーーなるほど。

石井:もちろん本当に辛いヤツらは映画館とか来れないと思うし、彼らの生き抜いている地獄というか、戦場はものすごいと思うから「こんなの甘いよ」って思うかもしれないんだけど、普通の現実とそういう世界を繋いで世に知らしめるのは、ロックとか映画の役割のひとつだと思うんです。加えて、映画は娯楽だとも思うので、シリアスな現実と娯楽をどうやったら繋ぐことができるのか、あるいは自分が納得出来るのか、というのは、自分にとってひとつのテーマでもあります。映画館で観てほしいのはもちろんだけど、たとえばレンタル屋でふと手に取ったとか、何かの拍子にでたまたま観てしまったりして、「日本映画でこんなのがあるんだ」「こういう表現が出来るんだ」と感じてもらえたりしたら、すごく嬉しいですね。

ーー監督の映画を初めて観たときはまさにそんな感じでした。仲間内で「これ観てみろよ、すげぇから!」って回していました。

石井:そういうのが嬉しいですよ、本当にね(笑)。

ーーでは最後に、監督が映画を撮る上でいちばん大切にしていることを教えてください。

石井:「自分が本当に心の底から撮りたいと思うかどうか」でしょうね。どんなに素晴らしい依頼があっても、相通じるものがないとやはり出来ないです。自分に嘘はつけないので。一方で、どんなにくだらなかったり、恥ずかしいと思うことでも「これは俺は絶対やっておきたいんだ」っていうものがあれば、それは撮ります。今回の映画は、映画館の音響をフルに使ってライブハウス並みの音を出していて、立体感のあるbloodthirsty butchersの音像を楽しめるので、音楽好きの人にはもちろん体験してほしいんですけれど、映画自体も色んな作り方していて意外性のある作品になっていると思うので、普段はあまりロックを聴かないような人々にも、ぜひ一度観てほしいです。

(取材・文=ISHIYA/写真=リアルサウンド編集部)

■映画情報
『ソレダケ / that’s it』
公開:5/27(水)よりシネマート新宿にてロードショー。
全国順次追撃上映。
出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛
監督:石井岳龍 楽曲:bloodthirsty butchers 脚本:いながききよたか 製作:『ソレダケ / that’s it』製作委員会
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
2015年/日本/カラー/1:1.85/3ch/110分 © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

公開初日の5/27(水)には『吉村秀樹トリビュート 映画「ソレダケ / That’s it」 05.27 爆音上映 @TSUTAYA O-EAST Supported by boid』というイベントが渋谷TSUTAYAO-EASTで行われる。ライヴ級のド迫力の爆音で映画を体感できるこの爆音上映イベントでは舞台挨拶もあり、染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、石井岳龍監督の登壇も予定されているので是非足を運んでみてはいかがだろう。チケットは以下のサイトより。

『ソレダケ / That’s it』公式

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