稀代の名ドラマー、ジェフ・ポーカロの参加作をどう味わうか 評論家ら3氏が語り合う

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山村牧人氏。

「ジェフの音源をとことん知りたいという途方もない愛があって、その結果として生まれた本」(山村)

――本の中で“ジェフが参加していることは確かだけど、どの曲で叩いているかわからない”というアルバムに関して、どの曲でジェフが叩いているか、綿密に検証しているところもポイントだと思いました。

小原:それについては、村山さんと、(ポーカロを聴く会の)メンバーの田中(雄一)さんという長年ジェフを聴いている人と僕との3人で検証したんです。アルバムを3人一緒に聴いていくんですけど、多いときで1日に12枚聴きました。

村山:とにかく全部聴かないといけませんからね。ものすごい作業でした。

小原:全部と言っても、イントロだけ聴いて明らかにジェフじゃなかったら飛ばしちゃう曲もありましたけどね。みんなで検証する前に、僕が各アルバムの情報を整理して、リストにしておくんです。ジャッジ・シートと呼んでいるんですけど、参加ミュージシャンをわかる限り書いておくんですね。こういった情報があると、例えば事前に他の参加ドラマーの癖を把握しておけば、そこから推測できるし、ベーシストとのコンビネーションから推測することもできるし。あとジェフかどうかをジャッジするためのリファレンスの演奏も決めておきました。検証するアルバムと同年代の、象徴的な演奏を決めておき、それを基準に推測していったんです。

山村:やっぱり、そういう作業が脈々とあってこその本なんですよね。

――本の中には、参加ミュージシャンの他にも、プロデューサーやベーシスト、レコーディング・スタジオまで書いてありますから、途方もない作業だったと思います。

小原:今考えると、よくぞここまでやったと思いますね。自分で自分を褒めてあげたい(笑)。大変でしたけど、“この本、プロデューサーやベーシストまで書いてある。すごいな”とか、“何となく「愛と青春の旅立ち」のあのハイハットの音はパイステ(シンバル)の音でジェフっぽいと思ってたんだよな”とか、本の感想を書いてくれる人がいると、うれしいですね。

山村:それってなかなかできないことなんですよね。“曖昧だからやめとくか”ってなるんだけど、そこを載せているのはすごいと思います。

村山:逆に音楽評論家でなかったからやっちゃったことですね。オーディオについては迂闊なことを言えないけど。

小原:責任がないってわけじゃないですけどね(笑)。あくまでも推測と断った上で。でも、三人寄れば文殊の知恵じゃないけど、一応ジェフをずっと聴いてきている人間が推測しているから、読み物として読んでくださって、“七割方くらいは合っているんじゃないかな”と捉えてくださればいいかなと思います。

村山:1日で12枚も聴くと頭がおかしくなりそうでしたけどね(笑)。集中して聴くから、本当に耳が疲れてくるんです。身体を動かしていないのにヘトヘトになる。(アルバムに参加している他のドラマーが)明らかにジェフと違うスタイルだったらわかりやすいんですけどね。例えばエアプレイのアルバム(※2)について、何年か前、マイク・ベアードがインタビューで、ずっとジェフだと言われていた曲について「これは僕だ」と言ったから、それまでの定説が覆っちゃったんですよ。本人が言っているから間違いないと思うんですが……そこは信じるしかない。でも、マイクの演奏は本当に(ジェフと)似てましたね。あと、一番の発見だったのはジョージ・ペリッリ。本当にそっくりで、ジェフのフォロワーだったことがよくわかりました。

(※2)エアプレイのアルバム『Airplay』は、ジェフ参加の重要盤ながら、どの曲で参加しているか明記されていなかった。参加ドラマーはジェフとマイク・ベアードの2人。

小原:あと例のトニー・ウィリアムスとのツイン・ドラムの件(※3)ですね。これについても、情報を見たことがなくて。アルバムのクレジットにトニー・ウィリアムスと書いてあるけど、左右のチャンネルでドラムが全然違う。だから調べてわかったときには、もう“ああっ!!”という感じで。こういうことはちゃんと書くべきだなって思いました。それからランディ・シャープのテイク違いを見つけたときも興奮しましたね。

(※3)本書制作の過程で、レス・デューデック『Say No More』収録曲に、トニー・ウィリアムスとジェフ・ポーカロのツイン・ドラム曲が確認された件。詳細は本書参照。

――どういう発見でしたか?

小原:ランディ・シャープの『The First In Line』というアルバムがダイレクト・カッティングのディスクで、オーディオ的にも面白いわけですよ。だから、よりコンディションのいいものを入手したいと思って、何枚か買って聴いているうちに、「あれ? これはさっきのリフと違うぞ?」と気がついて。レコードのマトリックス番号(※4)を見たら違っていたから、「ああ、これはマスターが違うんだ」とわかったんです。そういうところもきちんとフォローして書かなきゃと思いましたね。まあ、そんなことを毎月1回、全部で6回やったんです。半年かかりましたね。

(※4)何番目のプレスかを表す番号。通常、レコード盤に表示されている。

村山:この作業だけで 72〜3枚は聴いてるんですよ。

山村:こういうふうに聴き込む人がいるということですよね。それが根っこにあっての、この本なんだと。例えば、僕が接する若いドラマーに「どんな音楽が好きなの?」と聞くと、アーティストの名前は挙げるんだけど、そこで「ドラムは誰?」と聞くと知らなかったりする。そういう人が少なくない。ヘタしたら何となくYouTubeで出てきた曲だけ聴いてますとか。そうするとやっぱり“人”に焦点が当たらないし、研究になりにくい。まったくならないとは言いませんけど。この本には、ジェフの音源をとことん知りたいという途方もない愛があって、その結果として生まれた感じがありますよね。

――アル・シュミット氏や村上輝生氏といった、実際にTOTOのレコーディングに携わった人の証言が入っている、ということにも驚きました。

小原:村上さんに行き着いたのは、今回アル・シュミットに話を聞きたいと、ある日本人のマスタリング・エンジニアに紹介してもらおうと考えてメールを送ったんですよ。そうしたら「TOTOやジェフに関して話を聞くのなら、村上さんに聞いた方がいいよ」と、その人が推薦してくれたんです。それで、コンタクトを取って、会いに行ったら、すごくフランクな方で。

――インタビューの回答も、とても丁寧ですね。

小原:そうなんです。とにかくこのインタビューがあったことが、この本が成功した要因だと思うし、自分を奮い立たせることにもつながりました。

村山:楽しかったですね。本当にいろいろなお話を聞けて。

小原:活字にできない話もあったし、本当は載せたい秘蔵の写真もあったんですけど、結局それは遺族のアプルーヴを取らないといけないってことで、そこまで話が行かなかったんです。

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