きのこ帝国・佐藤が明かす、音楽家としての”根っこ”「誰かと出会いたい一心で音楽をやっている」

「光の強さを知ってるからこそ闇が描ける」

——カップリングの「Donuts」はサウンドもオルタナ的で、楽曲のアウトロも3分以上の演奏です。ここで「メジャー・デビューしてもきのこ帝国の本質は変わっていない」と宣言されたようにも感じました。

佐藤:単純にきれいなものが並んでいても飽きるんで、ブッ飛んだのを入れたいなという意識はあります。

——ここのアウトロはどう作ったんですか?

佐藤:スタジオでホワイトボードに「無限」って書いて「こんな感じでよろしく」って。無限じゃないんですけどね、実際は3分で(笑)。きのこ帝国は轟音で盛り上がるのは好きなんで、そこだけはライヴを意識した感じがあっても面白いかなって。

——サウンドの方向性はメンバーと話し合われたりしますか?

佐藤:話し合いはしないですね。昔の方が私の意向が強くて、「渦になる」「eureka」(2013年)「ロンググッドバイ」(2013年)を出したあたりは、ワンマンな感じで作ってて。「フェイクワールドワンダーランド」(2014年)以降はいい曲を書けたという自信があったから、アレンジはみんなのプレイのニュアンスを活かして。今回も、デモを聴いた段階で雰囲気を読んでくれたので、それぞれプレイをブラッシュアップしてもらって、あまり私は口出しはしませんでした。初期はプレイが未熟だった面もありますし、自分の中でも音楽像が決まってたんで、フレーズとかも結構みんなに言ってましたね。特にドラムが大変だったと思います。リズムセクションにこだわりがあって、ドラムという楽器が大好きだったんで、「そのハイハットは邪魔だ」「ここでバスドラを入れてほしい」とか色々言ってたんです。

——でもきのこ帝国はリズムセクションが巧いですね。赤坂BLITZ(2015年1月21日)のライヴを見ていて感じました。

佐藤:みんなのプレイが良くなって、引き出しが増えて、口出しすることが減りましたね。

——カップリングの「スピカ」はとてもポップです。シングル1枚が現在のきのこ帝国の音楽のショーケースになっている気がしました。

佐藤:高校3年生、18歳ぐらいのときに書いた曲です。カップリングで何を入れようか悩んでて、「桜が咲く前に」は従来のサウンド面を踏襲しつつも一皮剥けてる感じがあるから、「ついでではない曲」を入れたいと思ったんです。私の中では、昔書いたすごく恥ずかしい曲ではあるんですけど、「桜が咲く前に」とリンクしてる部分があるし、今このタイミングで出さないとお蔵入りだという意識もあったので入れました。メンバーのゴリ押しもありました、「いい曲じゃん!」って。

——佐藤さんにとって恥ずかしいポイントとはどこなのでしょうか?

佐藤:曲を書き出した頃の曲なんで、歌詞の表現にしろ、メロディーにしろ「ストレートでベタだなー」というのが恥ずかしいんですよ。ベタさが恥ずかしい。今はベタのその先を意識したいと思っていて、ベタだから頭に残るんじゃなくて、「なんだこのメロディー!?」と聴いているとベタに感じてくるメロディーを書きたいです。

——「桜が咲く前に」にしろ「東京」にしろ、人の胸にすごく刺さる楽曲を佐藤さんは狙って作れている感じなのでしょうか?

佐藤:思い入れがありすぎて、いつの間にかそういう曲になっちゃうというのはあるんですけどね。

——2007年に結成して、メジャー・デビューまで8年をかけた感慨はいかかがでしょう?

佐藤:すぐ結成10年が来ちゃうなと思いますね(笑)。でもイベントとかできたら面白いですよね、若いバンドをフックアップする企画とか。

——今、ふだん佐藤さんが聴かれている音楽は昔と変わらない感じですか?

佐藤:中学ぐらいに聴いていたメジャーなものに戻ってきてます。高校、大学あたりは国内のインストを聴いたり、オルタナ、ポストロック、シューゲイザーと呼ばれるものを聴いたり、ライヴハウスに行ったりしてたけど。シガー・ロスがすごく好きで来日公演も行ってます。「渦になる」の「足首」はシガー・ロスを意識してみんなに注文してましたね。「渦になる」は音楽的趣味を盛り込んでました。

——今はそこまで「趣味」を押し出していない感じですか?

佐藤:そうですね、誰かの音楽をトレースするより、自分たちの新しい音楽を切り開く方が楽しいです。

——それはバンドのレベルが上がったり、佐藤さんのソングライティングが上がったからでしょうね。

佐藤:でもバンドの底力や、ソングライティングの力はやりだしてから終わるまで変わらないと思いますよ。きのこ帝国も闇の側面を語られることが多かったけど、光の強さを知ってるからこそ闇が描ける部分もあって、表裏一体の二面性だと思っていて。きのこ帝国の核の部分が最近見えてきただけだと思いますね。

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