山崎まさよしの曲はなぜリスナーの心を揺さぶるのか 音楽ジャーナリスト2氏が語り合う

柴「曲に漂う“寂しさ”を音楽的な器用さで何重にも覆っている」

柴:音楽性でいうと、山崎さんはアルバムごとに明確なコンセプトを立てたり、その時の好奇心でいろんな音楽を取り入れたりするタイプではありませんよね。もちろん毎回チャレンジはあるけれど、自分のルーツに繋がっている音楽を更新し続けているというイメージです。

樋口:あまり「世の中でこういう音楽が流行っているから、こういう音楽を作ろう」といった意識はないと思います。たくさんCDを買ってインプットするということもなくて、まさに根っこにあるもの、ブルースや自分が聴いてきた歌謡曲を軸に音楽を作る感じですよね。あとは新しい楽器ーーたとえばパンデイロっていうタンバリンみたいな楽器を手に入れて、トライバルな音楽性が加えられたりはします。楽器や機材、レコーディング環境などによって、音楽性が更新される場合が多いように思いますね。

柴:そう考えると、山崎まさよしさんが音楽に向かうモチベーションってなんでしょうね。新しいものを作りたい、という感じではないですし。

樋口:外側に対しては、自分のことを必要としてくれる人がいたら、とりあえずそこに行くよ、というスタンスだと思います。もしも音楽をやっていなかったら、荷物を運ぶとか、ご飯を作りにいくとかでも良かったんじゃないかな。誰かに必要とされることがモチベーションのひとつというか。内側の部分に関して言うと、いま彼はとても幸せな家庭を築いていますが、どこか暗い影があって、一緒に飲んでいると時々、孤独感みたいなものがが見え隠れします。そういう部分を自分なりに昇華できるのは音楽しかなくて、それは誰かに聴かせるというより、自分のためにギターを弾く、という感じ。初期の頃は恋愛の曲が多かったけれど、そこで歌われていたのも、別れとか喪失感で、彼はそういう孤独な感覚を作品に落とし込んできました。最近だと、彼が山口県にいた頃にお世話になっていたライブハウスのオーナーと、十数年に渡って一緒にライブ制作していたスタッフが亡くなって、その気持ちを「星空ギター」という曲にしていました。大事な人を亡くしたときの落ち込み方が普通の人より深くて、そういう性質は彼の作家性にも繋がっているのかもしれません。

柴:たしかに山崎さんの曲には、どこか寂しさが漂っています。でも彼は積極的にそれを見せようとはしていないですよね。よく覗き込むとそれは見えてくるけど、そうした面はマルチプレイヤーならではの音楽的な器用さで何重にも覆っている。その豊かな音楽性の中で、アルバムでいうと1~2曲、彼の持つ寂しさが垣間見える。「星空ギター」もそうだし、「僕らは静かに消えていく」なんかも、そういう曲ですよね。

樋口:山崎さんには、彼より少し年上の女性ファンが多いじゃないですか。それはきっと、放っておけない感じがあるからだと思います。どこか脆い感じが音楽の中にもあって、女性ファンはそこに鋭く反応している人が多いんじゃないかな。逆に男性のファンだと、10代の時に山崎さんの音楽を知ってすごく好きになったという年下の人が多くて、そういう人たちはギターヒーローとして憧れを抱いているように思う。

柴:山崎さんみたいなタイプのアコギのギターヒーローってなかなかいないですよね。山崎さんのギターにはブルースもあるし、ソウルやファンクっぽい跳ねたグルーヴもある。「ド ミ ノ」や「Fat Mama」みたいなカッティングの格好よさもある。そういう卓越したギタープレイというのは、たしかに男性ファンを惹き付ける要素になっているのでしょう。

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