パスピエを支える“バンドマジックへの信頼”とは? キャリアを踏まえて最新作を読み解く

パスピエ流「ポップロック」の変遷と新曲「トキノワ」

 4月29日にリリースされるパスピエの新曲「トキノワ」はテンポの速いバンドサウンドを基調にした爽快感が印象的な楽曲で、フォーマットとしては必ずしも目新しいものでもない。ただ、ここまでのパスピエの活動を紐解くと、彼らがここまで行ってきた継続的なチャレンジに対する現時点での回答として「トキノワ」を位置づけることができるのではないだろうか。

 「印象派のクラシック音楽×ポップロック」というのが結成当初からのパスピエのコンセプトだが、彼らはここまで一貫して「ポップソングとして成立するバンドサウンド」を追求してきた。ライブ映えする迫力を担保しつつも、シングアロングだけでなく一人でも口ずさみたくなるような歌をいかに届けるか。こういった問いが彼らにとっての大きな論点になっているように思える。

 2012年リリースの『ONOMIMONO』の収録曲で今でもライブのハイライトとなっている「最終電車」は、この問いに対して早々に提示された一つの完成形だった。センチメンタルで美しい情景が疾走感とともに届けられるこの楽曲の系譜として2013年にリリースされた「ON THE AIR」があるが、この曲も収録されたメジャーデビューアルバム『演出家出演』ではライブバンドとしての側面に重きが置かれたこともありこの路線のブラッシュアップは一旦ストップしている。

 『演出家出演』に続く昨年のアルバム『幕の内ISM』に収録されているのが「七色の少年」である。「最終電車」の持つ感傷的な雰囲気を残しつつもより開放感のある仕上がりとなったこの曲は、間口の広いポップミュージックが今まで以上に志向されている『幕の内ISM』の魅力を体現する一曲と言ってもよいだろう。

 『幕の内ISM』の後に発表された「贅沢ないいわけ」では、「七色の少年」で獲得した抜けの良さはそのままにサビのクラップなどステージでより効果を発揮する仕掛けが施されている。そして、新曲の「トキノワ」も、こういった進化の過程の中で生まれた1曲だ。サビで刻まれる16分音符のハイハットによって増幅されるダイナミズムはここまで挙げてきた楽曲と比較しても群を抜いており、メンバーの演奏シーンがこれまで以上にはっきりと映されているPVも含めて「バンドらしさ」をより重視していることがうかがえる。一方で、チャイム風のギターフレーズや鍵盤のグリッサンドといったキュートな小技からは、単に「速くて気持ちいい」では片づけられない遊び心が感じられる。

 『演出家出演』を通じてバンドが体得した「ライブ感」と、『幕の内ISM』以降のパスピエらしいカラフルで開かれたモード。この2つの強みが高次元で融合しつつあるのが、今のパスピエだと言える。そんな魅力がそのままパッケージされた「トキノワ」が、アニメのエンディングテーマという形で今までバンドの存在を知らなかった層にも届けられているというのはバンドとして非常に大きな意味を持つと思われる。

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