Awesome City Clubがデビュー作で提示する、“今の日本にしか生まれ得ない”音楽とは?

棲み分けられたリスナーを橋渡しする存在として

「いわゆるヒットチャート」とは異なる日本のポップミュージックのフィールドでは、大きく分けて2つの流れがここ2年ほど併存しているという感覚がある。1つが、「フェス」を中心的な磁場としたロックバンドの流れ。BPMの速いバンドサウンドに代表されるフィジカルに訴えかける音楽は、まだまだ後退する気配はない。もう1つが、古今東西の音楽的な意匠の掛け合わせによって盛り上がっている「インディー」「シティポップ」などと称される流れ。インターネット上での情報のやり取りが、リアルなライブの場と同様に(もしかしたらそれ以上に)その土壌を支えている。

 この2つの足場を行き来しているバンドは少ない、もしくはほとんどないというのが実態だろう。それぞれの界隈に存在するリスナーが、「自分向け」の音楽を無意識のうちに選別しながら楽しんでいる。そしてACCも、これまでは後者に陣取って支持を広げてきた。ネット上のみで音源を公開するという活動は自然と届くべき層に届いたし、自主企画でも自分たちのビジョンを共有できるアーティストをコンセプチュアルに選んできた。

 ここまでの動きは、ACCと強い結びつきを感じるファンを確実に増やした。一方で、このバンドは非常に野心的である。現状を踏まえて、マツザカはこうも言っている。

「『あ、こういうカテゴリーのバンドだよね』と言われるのは嫌なので。もっといろんな領域を行き来できたらいいなと」

 間口の広い音楽と、多くの人に聴いてもらうための工夫を惜しまないという強い覚悟。双方を合わせ持つACCは、まだアプローチできていない層に自分たちの存在をアピールしようとしている。今回のメジャーデビューはまさにそんな意思の表れだ。そして、次なる試金石となるのは5月に開催される『VIVA LA ROCK』だろうか。これまでとは毛色の違う大規模ロックフェスのオーディエンスを前にして、ACCがどんなパフォーマンスを見せるのか注目したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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