Awesome City Clubがデビュー作で提示する、“今の日本にしか生まれ得ない”音楽とは?

人懐っこさを支えるJ-POPの遺伝子

 ACCの音楽には様々な海外シーンからの影響があり、メンバーの口からもFoster the Peopleやチルウェイブといったバンドやジャンルの名前が挙げられている。一方で、日本の音楽とのつながりについてマツザカは前述のインタビューでこんな発言をしている。

「僕はceroがずっと好きなんですけど、彼らが醸し出しているブラックミュージック的な雰囲気を突き詰めていくと、90年代のJ-POPとリンクするような気がしていて。ブラックビスケッツとか。あの当時のゴスペルとかソウルとかを基調にしたポップソングって最近の洋楽を聴く気分にも近いと思うし、そのあたりの空気感もやりたいことの一つではあります」

 このコメントについて、ここでは2つの点に注目したい。まず、90年代のJ-POPがACCの下敷きになっているということ。90年代が「2つ前のディケイド」になったことで、この時代の音楽は誰もが参照できるアーカイブになりつつある。tofubeatsやShiggy Jr.といった次代を担うであろうミュージシャンたちの動きとも共振している発想である。次に、例示として挙がったのがブラックビスケッツだということ。「ブラビ」の愛称で親しまれたこのグループは人気バラエティ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」から生まれた「おふざけ企画」の色合いも強いが、その楽曲にはSMAPの仕事でお馴染みの林田健司や小森田実が関わっている。華やかなソウルミュージックをテレビ仕様・タレント仕様に「お化粧」した音楽がACCの根幹にある、というのはなかなか興味深い事実ではないだろうか。

 こういった前提を置いて改めて『Awesome City Tracks』を聴いてみると、90年代的なJ-POPのあり方を確認できるポイントが複数存在しているように思える。たとえば「4月のマーチ」における青空と草原が似合うような開放感は、トーレ・ヨハンソンが手掛けた原田知世やBONNIE PINKの作品群と地続きのように感じられる。また、横ノリが印象的な「It’s So Fine」はブラックビスケッツ「タイミング」の作者でもある中西圭三を彷彿とさせる部分もあるし、後半に登場するワンフレーズで一気に転調する手法にも往時のJ-POPの匂いが感じられる(個人的にはモーニング娘。の「サマーナイトタウン」を思い出した)。

 ACCというバンドの魅力については、海の向こうと同期する洗練されたサウンドに関して言及されることが多い。彼らがそういう側面を持っているのは事実だが、そこに「J-POPのエッセンス」が交配されているというのもACCのかっこよさを考えるうえで非常に重要なファクターである。90年代のJ-POPらしいホスピタリティと現在進行形のフォーマットの融合が、今の時代の日本にしか生まれ得ないオリジナルな音楽のあり方を実現している。

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