Awesome City Clubがデビュー作で提示する、“今の日本にしか生まれ得ない”音楽とは?

注目バンドの現在地、『Awesome City Tracks』

「これを聴けばACCがどんなバンドか認識してもらえるのかなと」

 主宰のマツザカタクミが公式インタビュー(http://accgov.net/talk/talk_1.html)で語っている通り、Awesome City Club(以下ACC)のメジャーデビューアルバム『Awesome City Tracks』にはバンドの持つ魅力がコンパクトに収められている。収録されているのはすでにネットで公開済みだった代表曲6曲と新曲「It’s So Fine」の計7曲。すべての楽曲のプロデュースをmabanuaが務めることでリズムトラックの配置がより整理され、その結果として彼らの特徴でもあるキャッチーで無駄のないアンサンブルがますます強調されるようになった。

 ライブの曲順をコンセプトに並べられた7曲には明確な起承転結がある。冒頭の2曲、「Children」と「4月のマーチ」はバンドの表の顔とも言うべきクールで爽やかな佇まいを体現した楽曲。それに続くインディR&B調の「Jungle」「Lesson」は、自然体な空気の中にもキリっとした緊張感が同居している。そんな禁欲的な雰囲気を打ち破るかのように始まるファンキーな「P」「It’s So Fine」では、ミラーボールがガンガンに回るフロアの景色が描かれる。

 享楽的なパーティータイムの後に辿り着くのがラストナンバーの「涙の上海ナイト」。ここで歌われているのは、「日本人が考える中国」といった趣のどこかコミカルだけどやけに妖しく魅力的な情景。実在しそうでおそらく実在しない世界をテーマにしたオリエンタルなこの曲は、「架空の街 Awesome City のサウンドトラック」というバンドのテーマを体現しているとも言える一曲である。

 1曲目の「Children」から7曲目の「涙の上海ナイト」まで、アルバム全編に通底しているのは「“伝えたいこと”からの遊離」である。作り手のメッセージの前景化ではなく、聴き手の想像力の最大化。共感の押し付けではなく、さりげない没頭への誘導。そんなスタンスで作られていると思われる彼らの楽曲は、いつ聴いても絶妙に心地よい。リスナーがどんなシチュエーションに置かれていても、その場面に応じた形になって体の中に沁み渡っていく。それがACCの音楽のコアバリューである。

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