山下智久『アルジャーノンに花束を』で再注目 野島伸司ドラマの“劇中歌”を読み解く

 4月から、野島伸司が脚本監修を務める山下智久・主演の新作ドラマ『アルジャーノンに花束を』(TBS系)がはじまることもあってか、野島ドラマに改めて注目が集まっている。

 関東地区では先日までドラマ『高校教師』(TBS系)が再放送されていた。本作は、女子高に赴任してきた新人教師・羽村(真田広之)と女子高生・二宮繭(桜井幸子)の恋愛を描いたドラマ。

 生徒と教師の恋愛を入口に、レイプや近親相姦が描かれた本作は、放送当時はショッキングな問題作として賛否を呼んだが、当時の桜井幸子の持っていた儚げな魅力も含め、今見ても映像、脚本の完成度は圧倒的で、その魅力は全く色あせていない。

 何より、素晴らしかったのは森田童子が歌う主題歌「ぼくたちの失敗」だ。

 か細い声で歌われる「春のこもれ陽の中で 君のやさしさに うもれていたぼくは 弱虫だったんだヨネ」という歌詞は強烈で、作品全体の印象を支配しているといっても過言ではなかった。

 森田童子は75~83年に活動したフォークシンガー。おそらく「ぼくたちの失敗」は、学生運動に挫折した当時の若者の心境が歌われていたのだろう。

 学生運動の挫折感がバブル崩壊以降、閉塞感を増していく90年代の空気と連動した結果『高校教師』という怪物ドラマが生まれたのだ。と、改めて再確認した。

 野島ドラマには懐メロが多く登場する。『愛という名のもとに』(フジテレビ系)でも、浜田省吾の過去曲を使用したり、伝説的なフォークシンガー・岡林信康の「友よ」「私たちの望むものは」が挿入歌に使われていた。

 『高校教師』に続いて再放送されている『未成年』(TBS系)では「Top of the World」などのカーペンターズの楽曲が使用されている。

 本作は家や社会に居場所のない少年たちの彷徨を描いた青春ドラマ。

 おそらくカーペンターズのエバーグリーンな世界観と、無垢なる魂が引き裂かれている少年たちの苦悩を重ね合わせたのだろう。こういった過去の楽曲を発掘して別の意味を与えるサンプリング的手法は、コーネリアスやピチカート・ファイヴといった渋谷系のミュージシャンとの同時代性を感じさせる。

 『未成年』は、終盤になると周囲の誤解から少年たちが社会を捨てて山奥で暮らすようになる、しかし、犯罪組織と誤解され、機動隊に取り囲まれてしまう。

 おそらく、あさま山荘事件を下敷きに書かれたのだろうが、放送されていたのは95年。地下鉄サリン事件に端を発したオウム真理教の報道が大きく盛り上がっていた時代だった。オウムが露わにした「無垢なる魂が社会と衝突して、サリンをまいてしまう」という問題は野島の作家性とかなりシンクロしていた。おそらく野島もそのことを自覚していたのだろう。しかし、野島は、オウム真理教の問題から最後の最後で目をそらし、結末を誤魔化してしまった。それ以降の野島は迷走し、『高校教師』のような傑作を生み出せていない。

 だからこそ、無垢な青年が脳手術によって天才となることで社会の残酷さと直面する『アルジャーノンに花束を』は、野島にとっての原点回帰となるのでは。と、期待している。

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