冗談伯爵が目指す“ソフト・ロック感覚”とは? 10枚のレコードとともに探る

前園「僕が冗談伯爵で貢献できるのって詞しかないと思っていて(笑)」

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07. 赤い鳥『美しい星』(1973年)

前園:赤い鳥はいいですよね。どのアルバムも聴くべきものがあると思うんですけど、どれも海外録音だったりセルフ・プロデュースでやっていたりだとか、それぞれの楽しみ方があると思っていて。あと山上路夫さんと村井邦彦さんのプロダクション……言ってみれば日本のソフト・ロックをつくり上げた人たちですよね。そういうものの象徴として赤い鳥を選んだところはあるかな。同じコンビの手がけた トワ・エ・モワ然り、森山良子さん然り。僕ら結局ハーモニーが好きなんですよね。

――赤い鳥というとハイ・ファイ・セットのお三方もいますもんね。あとこのアルバムはアメリカ録音で、フィフス・ディメンションでおなじみのボブ・アルシヴァーがアレンジを手掛けています。

前園:このアルバムはアレンジももちろんいいんですけど、やっぱり特筆すべきは村井さんと山上さんのソングライティングが素晴らしいと思っていて。小西さんと一緒にやっていた前園直樹グループのころにも「窓に明りがともる時」をカヴァーしていたし、個人的な指標として作詞に関してはずっと山上さんを尊敬しているんです。言葉の選び方がちょうどいいというか。僕が冗談伯爵で貢献できるのって詞しかないと思っていて(笑)。詞はがんばらなくちゃなって思ってるんですよね。なるべく歌詞カードを読まずに聴き取れる歌詞を目指しています。そこはすごく意識してやってますね。

08. デューク・エイセス『にほんの民謡』(1971年)

前園:これも結局アレンジの話になるんだよね。

新井:このアルバムはアレンジを前田憲男さんがほとんどやっていて。バカラックっぽかったりボサノバっぽかったりジャズ路線のアレンジもあって、ソフト・ロック目線でも聴けるんですよね。いつも頭の中にあるアルバムです。

前園:前田憲男さんのちょうどいいセンスというか、ちょっとパロディも入れるんだけど下世話にならない感じというか……あのセンスは本当に素晴らしくて。和物レコード店(LOVE SHOP RECORD)の店長的には前田憲男さん関連のレコードがいま高くて困ってるんですけどね(笑)。うん、素晴らしいアレンジャーだよ。

新井:デュークはどっちかというとそんなに難しいハーモニーをやるグループじゃなくて、基本的にわかりやすいことをやってると思うんですけど、そういうわかりやすさというか技術に走らないというか……もちろん技術はものすごいと思うんですけど(笑)。それでなおかつちゃんと聴かせることができるのはすごくいいなって思っていて。タイトル通りこのレコードでは民謡の曲を歌ってるんですけど、やっぱりアレンジがすごいんですよ。民謡ってみんな知ってるじゃないですか?前園 やっぱりさっきの遊びの要素の話につながるところがあって……もうパロディすれすれっていうね。「LED」をあのアレンジにしちゃったときの踏み切り方だったり、今あえて新しく音源を作るときにアレンジをどう楽しんでやっていくかっていうのを考えると、やっぱりデュークの話とかになってくるんですよね。

09. かまやつひろし“幼きものの手をひいて”(1972年)

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新井が手にしているのが「青春晩歌」

――「青春晩歌」のカップリング曲で、作曲が筒美京平さん、作詞が阿久悠さんです。

前園:ムッシュはもう全体だよね。センスというか。この曲はたまたま新井くんがDJでかけていた曲だよね。

新井:当時の洋楽をうまく取り入れてるなって。

前園:しかもムッシュが歌うと完全にムッシュのものになるもんね。それってすごいことですよね、やっぱり。

新井:前にどこかのクラブでかけたときに「これってムッシュの新曲?」って聞かれたことがありました(笑)。それはいまでも通用するってことなんでしょうけど。これはおそらくギルバート・オサリヴァンが下敷きになってるんじゃないかと勝手に思っていて、その取り入れ感が好きですね。

前園:毎回そのときどきの自分のマイブームでやってるんですよね。ファースト・アルバムの『ムッシュー/かまやつひろしの世界』(1970年)では多重録音に挑戦していたり、そのあとセカンド・アルバムの『どうにかなるさ アルバムNo 2』(1971年)では一気にシンガー・ソングライターっぽくなって、何度もこれに戻ってしまうんですけど(笑)ゲイリー・マクファーランドの『Butterscotch Rum』にもつながる地味なソフト・ロックをやっていたり。個人的に本当にこれは素晴らしいと思ってます。

新井:ムッシュはスタンス的に近いところがあるかもしれないですね。

前園:ちゃんと「我が良き友よ」(1975年)みたいな大きなヒット曲も出してるのがまた凄いよね。

10. 加山雄三“夢の瞳”(1967年)

前園:加山雄三さんもムッシュと同じことですよね。でもムッシュは話しかけたいんだけど加山さんはポスターを貼ってればそれでいいみたいな(笑)。だってこの領域はもう無理でしょ。

新井:崇拝系だね(笑)。

前園:ムッシュの散歩の番組があったらちょっと見切れたいんだけど、加山さんのだったら行かないよね……そういう感じです、よくわからないですけど(笑)。ムッシュは前園直樹グループのころに対バンさせていただいたんですけど、特別にスパイダーズの曲をカヴァーしたんですよ。ムッシュはいるのかいないのか楽屋で待機しているんだかなんだかわからないんだけど、「いつまでもどこまでも」(1967年)を演奏したら終わったあとに遠くから「聴いてたよ~!」って大声で感想言ってくれたりして(笑)。もう76歳ですからね。まあ、ムッシュも加山さんもこだわりの人ではあると思うんですけど。

新井:うん、対極にあるというかね。

前園:でも加山さんもやっぱりトータル・プロデュース感というか、アルバムごとにそのときの音をエッセンスとして散りばめていて。一方でボサノバをやってたら一方ではサイケなことをやっていたり、「ブラック・サンド・ビーチ」(1965年)みたいなサーフ物の世界的なクラシックを生み出してるのと並行して「君といつまでも」(1965年)をヒットさせていたりするわけじゃないですか。その懐の深さですよね。

新井:この曲なんかは同年代の洋楽のソフト・ロックと混ぜても遜色ないよね。

前園:ストリベリー・アラーム・クロックみたいなサイケ・ポップだもんね。この人のなかでは、そういうマニアックなものと「君といつまでも」的なものが同居してるんでしょうね。

――それにしても、今回挙げていただいた10枚中8枚が1969年から1974年のあいだにリリースされた作品だったのは面白かったですね。この5年間ぐらいに集中してるっていう。

前園:ぜんぜん意識してなかったけど本当にそうだね。

新井:確かに70年代の真ん中ぐらいからはどんなに曲が良くても録音の感じがあんまり好きになれないものが多いですね。

――今後アルバムのリリースとかは予定されているんですか?

前園:流動的で具体的には決めてないんですけど、今アルバムをじっくり聴けるような体力みたいなものがみんなにあるのかなって思っていて……友達のSNSでの交流を俯瞰していると、アルバムを一生懸命作ってもちゃんと聴いてくれるのかな? って思ったりして。まあ、作りたいんだけどね。

新井:僕は作りたいですよ!(笑)。

前園:もともとはシングル曲を集めたものがアルバムになっていたわけじゃないですか。だんだんまたそういう感じになってきたのかなって思っていて。そういった意味ではこういう風にシングルにして一曲一曲で勝負できるようなものをつくっていけば、その先にまた何かが見えてくるのかなって思ってはいるんですけど。なにかコンセプトを立ててアルバム単位でやるっていうのは、お笑い要素も含めて企みたいとは思ってます。結局、このぐらいの年齢になってくると無視されるのが一番つらいので(笑)。あと考えているのは、先輩の方々に「冗談伯爵のこういう曲を聴きたい」というお題をいただいて、例えば最初から公開するような状態で「では2週間後にお聞かせします!」みたいな感じで曲を作っていくのも面白いかなって。大喜利じゃないですけど、もうお題ありきで。名付けて「パイセンシリーズ」。まだ具体的に声をかけてる人はいないんですけど、身近なパイセンから声をかけていってわらしべ長者的なことになればと思ってます(笑)。

(取材・文=高橋芳朗)

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『bird man/雨あがり』
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『LED/渚』
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『いつかどこかで/幽霊のバラード』

■リリース情報
『bird man/雨あがり』
発売中
価格:1,500円(+税)

『LED/渚』
発売中
価格:1,500円(+税)

『いつかどこかで/幽霊のバラード』
発売日:3月25日
価格:1,500円(+税)

HP:http://loveshop-record.com/cj/
Twitter:http://loveshop-record.com/cj/

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