SIONがデビュー30周年を迎えても立ち止まらない理由 福山雅治らがリスペクトする世界観とは?

 またデビュー当時からルースターズの花田裕之や池畑潤二がアルバムに参加したり「春夏秋冬」をカバーして泉谷しげるとも早くから交流が生まれていたが、自分の世界を確立していたSIONだからこそ彼らとも対等に渡り合えたのではないだろうか。1990年に発表した5枚目のアルバム『夜しか泳げない』ではさらに仲井戸麗市や下山淳、KYONといった辣腕ミュージシャンも参加。1994年の「sion 10+1」では10人のギタリストを迎えてレコーディングされるなど、それぞれがSIONの世界に足を踏み入れながら、曲に寄り添うようなプレイを聴かせている。

 その呟くような歌い方にはやはり過剰な音圧の無いアコースティックなものが良く似合う。ニューヨーク、東京で録音された2つのサイドで構成され、マーク・リボーらが参加した意欲作『Strange But True』(1989年)の“Strange Side”で聴けるオルガンやアコーディオン、ヴァイオリンはSIONのボーカルの魅力をより際立たせており、初期における彼の音楽の一つの完成形といえるだろう。

 1990年代後半以降、何度かのレコード会社の移籍を経つつも、立ち止まることなく歌い続けてきたSION。2008年からは宅録アルバム『Naked Tracks』シリーズを毎年欠かさず発表、日比谷野音ライブも恒例となる等、充実した活動を続けて今年ついに30周年を迎えた。

 ますます渋さを増したしゃがれた歌声と近年の彼を支えるミュージシャンにより作られた新作『俺の空は此処にある』は、ディストーションを効かせたギターのが力強く飛び出してくる「ONBORO」から、ブズーキの音色がゆったりとした情景を描き出す「jabujabu」、続く軽快なカントリー「けちってる陽だまり」、アコーディオンとアコースティック・ギターに乗せてワーカホリックな自分を嗤う「休みたい」など、深夜に独り自問自答しているような前作『不揃いのステップ』とは対照的に太陽に照らされてリラックスしたSIONの姿が浮かぶ。

こうした曲たちを聴くと、今も新宿の片隅から聴こえてきそうな彼の歌声になぜかホッとさせられる。変わりゆく時代に翻弄される音楽シーンの中で、一見飄々とマイペースにかつシリアスに己の魂を音楽に捧げ続けてきたSION。かつて「歌いたいことがない」という若いミュージシャンに対して「俺だったら、“歌いたいことがない”と歌う」と答えたというスピリットが今も彼を支えているのかもしれない。

(文=岡本貴之)

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SION『俺の空は此処にある』

■リリース情報
『俺の空は此処にある』
発売:2015年3月4日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD) ¥4,630(税別)
   通常盤(CD) ¥2,778(税別)※CDの収録内容は共通

<CD収録内容>
01 ONBORO
02 唄えよ讃えよ
03 jabujabu
04 けちってる陽だまり
05 水色のクレヨン
06 いつでもどこでも会いたい
07 休みたい
08 人様
09 俺の空は此処にある
10 諦めを覚える前の子供みたいに

<DVD収録内容>
2014年8月16日に行われた日比谷野外大音楽堂ライブより8曲収録。
01.バラックな日々
02.休みたい
03.ウイスキーを1杯
04.通報されるくらいに
05.どけ、終わりの足音なら
06.新宿の片隅から
07.長い間
08.月が一番近づいた夜
(撮影監督:宮本敬文 / 編集監督:藤森圭太郎)

■ライブ情報
『SION-YAON 2015 with THE MOGAMI』

出演者:SION with THE MOGAMI (池畑 潤二 / 井上 富雄 / 細海 魚 / 藤井 一彦)
公演日:2015年6月14日(日)
会場:日比谷野外大音楽堂 
開演:17:00 開場:18:00
チケット:前売 6,480円(税込)/当日 7.020円(税込)
※学割:高校生までは当日学生証提出で1,500円返金

プレイガイド
先行発売 2015年2月27日~3月6日
一般発売 2015年3月21日

チケットぴあ 0570-02-9999
ローソンチケット 0570-084-003
e+ http://eplus.jp/sys/main.jsp

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