風味堂が語る、ピアノトリオの強み 「音数が少ないから、歌がダイレクトに届く」

「ピアノトリオは音数が少ないから、歌がダイレクトに届く強みがある」(中富)

――1曲目がロックンロールだとすれば、アルバムの2曲目「大空へ」は、10年前に青春パンクと呼ばれたような曲の雰囲気をすごい感じるんですけれども。

渡:あ、そうです。これはですね、風味堂がずっとやって来た中で、青春パンクの時代があったなと思っていて。太陽族、ガガガSP、175Rとか、そんなに世代も離れていなくて、もうちょっと前にはMONGOL800とか、ああいう日本人特有の暑苦しさというか、フォーキーでパンクな感じが風味堂には合うんじゃないか?と思って。それをピアノでやる人はなかなかいないと思って、やってみたんですけど。

――この曲はもろにそうですね。懐かしい感じ。

渡:なるべくベタにやりました(笑)。2A(2番Aメロ)でリズムが変わるとか、だいたいみんなやってるパターンをそのままやりました。

――鳥口さんの曲「サマータイム」は、ロックはロックでも爽やかなサマーチューンのような。

鳥口:これは『風味堂5』を作っている頃に出来た曲で、すごく面白い感じになったので、ロックっぽさを出すにはいいんじゃないかと思って入れました。SF小説みたいな曲を作りたくて。今までの風味堂ではやらなかったようなサウンドを、遊び心でやってみたらいいんじゃないかということで。

――遊び心といえば、何と言っても6曲目「アイドルとつきあい隊」でしょう。やっちゃいましたね、思い切り。

渡:そうですね(笑)。これは30代の間に出しておかないと。40、50になってこの曲は歌いづらいなと思うので。すでに犯罪めいてるんですけど、今がギリギリかなと(笑)。

――あらためて曲のテーマを聞くのも、何なんですけども。

渡:まあ、アイドルとつきあいたいということですね。

――あはは。そのままだ(笑)。

渡:今の時代、アイドルがすごく活躍していて、ここまでアイドルというものが世間に認知されて、一部は世界的なものになっていることに嫉妬したというか(笑)。風味堂は必ずアルバムの中に、ふざけた曲を2~3曲入れて来たんですけど、今回はこれを入れようと。

――これ、誰の顔が浮かんでたんですか。

渡:いや、それは、ここでお話するようなことではないです(笑)。

――ということは、いるんですね、つきあいたいアイドルが(笑)。

渡:いやいや、そこを言っちゃうと、ただの俺の個人的な欲望になるので(笑)。これは一応、歌詞の設定が学生なので。まだ恋愛というものが新鮮な、思春期の人たちにぜひ聴いてほしいなと思います。

――その次の「男子んぐ喰ぃ~ん♡」も、けっこう来てますけれど(笑)。遊び心という意味では。

渡:これは『風味堂5』の時にすでに存在した曲で、風味堂のど真ん中を目指すアルバムには曲調が合わないということで、今回『風味堂6』に入れました。この人の場合はですね、この曲の主人公は、ストレスがたまってるんです。外に出て働いている時間は自分を偽って生きていて、そのタガが外れる瞬間を描いてみたんですけど。性欲が爆発するという。

――そういう曲ですね(笑)。ぶっちゃけた話。

渡:草食系男子、肉食系女子とか、言うじゃないですか。今は女子のほうが人口も増えてるし、遺伝子的にも女性のほうが強いという、そういうところまで行くんですけど。女子のパワーが男子を凌駕しているので、「男子んぐ喰ぃ~ん♡」というタイトルにしてみたんですけどね。

――こういう曲って、メンバーにプレゼンする時、渡さんはどんな顔で聴かせるんですかね。

渡:いや、普通に“はい”って。特に何も言わないですけど。

中富:突っ込むと、逆に恥ずかしいだろうから(笑)。これはダンシングとかけてますね、とか言うと、余計に恥ずかしくなる。

渡:出来れば触れないでもらうほうがいいですね(笑)。

中富:でもこの曲は楽しかったです。言葉遊びも面白いし。歳を重ねると、ダジャレを言いたくなるんでしょうね(笑)。ツアータイトルも最近はダジャレだし。シリアスな曲も必要だけど、軽く流せる曲も必要じゃないですか。そのために、こういう曲はすごくいいかなと思いますね。

――何なんでしょう。遊びの曲を絶対に入れたいというメンタリティの理由は。

渡:ライブのことをいつも考えるんですよ。ずっと真面目にいい曲だけでライブをやってると、どこかで息抜きみたいな、違う色を見せられたらいいなと思うので。シリアスじゃないものが1~2曲入ってると、ライブのセットリストも作りやすんですよね。

――ああ、そういえば「アイドルとつきあい隊」も、手拍子のパートがあって、ライブでみんなで盛り上がれそうな。

渡:そうなんですよ。なるべくみんなと一緒に楽しめるように。たいしたことは言ってない曲なんですけど(笑)。

――あと、ラストから2曲前、「SPACE TRAVELLERS」が好きです。これは大作ですね。

渡:これは作るのも大変で、もともとは2曲だったんですよ。前半の「SPACE TRAVELLERS」という曲を僕が作っていたんですけど、この曲はプログレにしようということになって。それはね、ここにいらっしゃる方(事務所のマネージャー)が、プログレが大好きなので(笑)。後半部分は、トリくんが作っていた「スペース・コロニー」という曲を入れ込んで、なおかつ展開をいっぱい作って、最後に「SPACE TRAVELLERS」に戻るというふうに作って行ったんですね。まさに今日もこの曲を練習しているところなんですけど、ライブで弾ける気がしないです(笑)。

――これは大変だと思いますよ。長い上にめちゃめちゃテクニカル。

渡:後半に行くと指の力がなくなるぐらい大変です。

鳥口:最近プログレめいてるよね。『風味堂5』の制作あたりから、プログレを聴き出したというか。

渡:トリくんと一緒にスタジオに行く途中に、車の中では必ずイエスをかけて(笑)。すごい参考になりました。

鳥口:この曲のイントロ、ピアノのリバースは、イエスからアイディアをもらってるんですよ。コーラスも。

――意外すぎます(笑)。中富さんの、個人的なお気に入り曲は?

中富:やっぱり「“TIME”」ですね。アルバムのリード・トラックをどれにしよう?という会議で、僕の中では「大空へ」か「“TIME”」だったんですよ。特に「“TIME”」は今まで風味堂がやってないし、イントロからおっ!と耳を引くような、予想外なのはこれかなと思ったので。だから一番好きなのは「“TIME”」ですかね。B’z感もあるし(笑)。

鳥口:ベース的には、「SPACE TRAVELLERS」のイントロの……。

渡:あのリフ、難しかったね。

鳥口:渡さんがピアノでフレーズを作るんですけど、鍵盤でやると簡単なリフが、弦楽器だと運指がすごく難しくて、これは出来ないんじゃないかと。ライトハンドじゃないと間に合わない。ライブでライトハンドをやりながらコーラスもやるわけにはいかないので。

――それこそイエスになりますよ(笑)。

鳥口:それもそれで面白いですけど(笑)。フレーズを変えてもらって、それでもすごく難しくて。久々に、修行のように練習した曲です。あと曲の途中で、スウィープ・ピッキングというのが出て来るんですよ。トゥルルルルって、弦をなでるように弾く奏法があって、ギターの奏法なんですけど、それをベースでやってみたりして、自分ではお気に入りですね。とはいえ、やりすぎちゃうとちょっと違うんですよ。ベースはストイックにバンドを支えて、楽曲が求めている時にそういうプレーをするほうが、正当でいいなと思うので。やりすぎちゃうと、何か大事なものが消えるような気がして。説明できないですけど、もったいない気がするんですよ。

中富:たぶん一般の聴いてる人って、ここの編成が何かとか、2Bからストリングスが入ったなとか、そんな聴き方はしないじゃないですか。やっぱり歌を聴くから。そういう意味で言うと、ピアノトリオは音数が少ないから、歌がダイレクトに届く強みがあるので。渡さんの声も特徴的だし、すぐに“風味堂だ”とわかるという意味では、ピアノトリオという編成は向いてるんだと思います。

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