4人のアイドル論客が語る『アイドル楽曲大賞』の始まりと現在地「真の楽曲派は現場に多い」

「アイドル楽曲が好きな約2000人の投票で順位を決めるというデータ自体に価値がある」(岡島)

ピロスエ:でも、ノミネートリストを一人で作っていて、載ってないアイドルがあると「ピロスエが恣意的に選別しているんじゃないか」という誤解も生じていて。そうではなく、アイドル楽曲大賞という企画をやる際に、基本的に世の中にあるアイドル楽曲すべてをノミネートさせるのが筋というか、原理的にそれは当然のことですよね。まあ100%は無理だけど、「無理だから最初からやらない」ではなく、それに出来るだけ近づけたい、と考えてます。現段階でも、世の中のアイドル楽曲の80%くらいはリストに入れられていると思いますが、それを99.9999……%まで上げたい。「100%にする」こと自体が目標ではなく、「100%を目指す姿勢を維持する」ことが目標というか。毎年、ノミネートリストの暫定発表の後に楽曲追加のリクエスト期間も設けているので、「アレが入ってない」じゃなくて、抜けてたらリクエストをしてほしいですね(笑)。そこまでやって初めて、この企画が成立するんだろうと思います。じゃあそこまでするモチベーションは何か?と言うと、「俺たちは単にもっとイイ曲を知りたいだけだ。もっとイイキョクを教えてくれ!」というところに行き着きますね(笑)。

岡島:アイドル楽曲好きが約2000人集まって、その人達の投票で順位を決めるというデータ自体がすごく価値があって面白いですよね。

ピロスエ:こういう格付けみたいなものを評論家やライターのみで行うという形式が、昔から雑誌メディアなどでは定番になっていますが、普通のファンが選ぶところに面白さがあるのかなと。また原体験の話をさせてもらうと、僕が中学生の時に『PATiPATi ROCK'N'ROLL』という雑誌を読んでいて、90年ごろにLÄ-PPISCHの曲について、読者が投票して順位を決める、という企画があったんです。そのときに1位だった曲は、当時の最新シングルの「Magic Blue Case」で、これは2015年の今から見てもバンドの代表曲と言える、納得の1位。そして2位になった曲は、1stアルバムに入っていた「LAULA」という曲で、ファンの間で人気はあったけど僕は知らないものだった。それをきっかけにして新しい曲を知った時に、こういう企画の面白さを感じて、その体験が楽曲大賞に繋がっているところもありますね。

岡島:思ってもみない曲が上位になる意外さはすごく面白いですよね。今年だと、Dorothy Little Happyの「恋は走りだした」(メジャー部門1位)やアイドルネッサンスの「17才」(インディーズ部門1位)は、僕の中では1位ではないんですけど、それが投票の結果、上位にきているのが興味深かったです。

宗像:アイドルネッサンスがインディーズ部門1位という発表の時に、僕は思わず「ん?」となりましたよ。カバーだからということじゃなくて、ソニーの過去の名曲を利用してオリジナルを一切持たないというラディカルなスタイルに対して、「この狙いにみんな素直に乗っているけどいいの?」という思いです。でも見ていると「いいよなー」と思って(笑)。

ガリバー:組織票とかではなく、アイドルネッサンスヲタって「ガチ勢」が多いんです。この半年は僕もまさにその葛藤があって、一番没頭している現場なんですけど、正直ステージや運営にオリジナルをゼロから捻り出すような産みの苦しみはあんまり感じない。全く新しい機軸なんです。だけどやっぱり良い現場で。でもまさか本当に1位とは思いませんでした。

宗像:ライムベリーの「IDOL ILLMATIC」がインディーズ部門で1位を逃したのは、いわゆる“物語厨”的な視点から見たら一大事だと思いました。あれだけの「復活劇」があったのに。

岡島:嶺脇(育夫。タワーレコード株式会社 代表取締役社長)さんと「ハロプロ楽曲大賞」で会ったときには、「今年の1位だと思ってたんだけど……」と言ってましたね。

ガリバー:「17才」が1位だったことには2つの側面があると思います。ひとつは、30代、40代、50代というように年齢層を区切って、それぞれの年代の人達に馴染みがあるカバー曲の選曲で着実にファンを増やしてきたということ。もうひとつは、現場にいる人達が試行錯誤するアイドルに飽きてきたのかな、ということです。 BELLRING少女ハートや、皮茶パパ、アイドルラップ的なものは、もちろんそれが悪いわけじゃないけど、そういうものに疲れて「普通にいい」アイドルを求めている人達が増えたのかもしれません。

岡島:そもそも楽曲大賞の1位には、王道系の楽曲が選ばれる傾向がありますよね。今年はメジャーの1位がDorothy Little Happyで、去年はAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」ですし。アイドルネッサンスの「17才」の1位にもやっとする人もいる反面、彼女たちにはそれを押しのける力もあったと思います。CD自体、現場かSMA(Sony Music Artists)のサイトでしか買えませんから。

ガリバー:しかもそのCD、楽曲大賞発表イベント日の当日(結果発表前)に売り切れてるんです。今回の1位について、批判的な声が多いのかなと思ったら、ツイッターでも6:4か7:3くらいの割合でポジティブな反応が多かったです。現場での接触は基本的に生写真とお見送り会だけなんですけど、逆にそういう距離感も含めて現場は好きなんですよね。CDを沢山売るという感じでもなく、単独自主企画イベントは約1ヶ月に1回で、満員にはならないくらい。それは3500円と少し高いですけど、商売気はないですよ。

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