大森靖子のラブソングは異端にして普遍ーー「きゅるきゅる」に見る作家性とは?

 激情系シンガーソングライターの新生として口コミでじわじわと名前を広め、2013年12月に自主リリースしたアルバム『絶対少女』は、蜷川実花がジャケット写真を撮影、カーネーションの直枝政広がプロデュースしたことでも話題となった大森靖子。2014年3月にメジャーデビューすることを発表して以降は、ライブで観客にチューしちゃったり、初の写真集のタイトルが「変態少女」だったりと、衝撃的な発言や過激なパフォーマンスが音に先行する形で取り沙汰され、注目を浴びている。

 連載2回目に編集部から与えられたお題アルバムは、彼女が12月3日にリリースしたメジャーデビューアルバム『洗脳』。ここには、アイドルポップな「イミテーションガール」から、ミュージカル調の「ナナちゃんの再生講座」、モータウン調の「子供じゃないもん17」、サーフロック×早口ラップ×パンクな「私は面白い絶対面白いたぶん」、さらにはアコギ1本による弾き語り「デートはやめよう」まで、本当にバラエティに富んだ楽曲が並んでいる。「ノスタルジックJ-POP」は、エモなサウンドと鋭い批評性を持った歌詞のギャップがすごくて、最初に聴いたときは毒想的かつ独創的な表現に舌を巻いたほど。彼女の多芸多才ぶりが発揮された、とてもポップな一枚だ。

 同作に収められたラブソングの主人公を妄想するために注目したのは「きゅるきゅる」。彼女はエロと処女性、狂気と正気、暴力性と優しさなど、相反する要素が混在する表現者だと思うが、この曲は女の子のいじらしさと大胆さが両方顔を出すラブソング。どこか幼気で切ない感じもある。

 テーマは、なかなか振り向いてくれない男の子へのもどかしさ。恋したお相手は《食べかけの愛にラップをかけて》キープしちゃってる男の子。その間に《あなたは他のを食べたくなるのね》と歌ってもいるから、彼には浮気性なところもあるようだ。そんな相手の態度に業を煮やし《腐っちゃうのを試してるんでしょ》《そのうち腐った私をみて 捨ててしまうの》と自虐的になりながらも、煮え切らない男→不器用な男と解釈を変え、いじらしさや母性本能をくすぐられて《かわいい人ね》と思ってしまう自分もいる。タイトルの「きゅるきゅる」というオノマトペは、タイヤがスリップするときのような、焦って空回りしている心境を指しているとも思うし、胸がときめくキュンキュンと、相手に翻弄されてクルクル振り回される状態を掛け合わせたものでもあるのだろう。それに、相手に対してめまぐるしく変化する胸の内を「きゅるきゅる」というキャッチーなひと言で表現したのは、彼女が仕掛けた巧妙な罠なのか。どんな歌なんだろう?と、ついつい関心を引き寄せられてしまうし、恋の苦悶や葛藤をそうやってポップに表現しちゃうところには、彼女の大衆性を備えた作家性を感じる。

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