宇多田ヒカルカバー集の売れ行きから見える、配信ダウンロード優位の時代 

 よいはずがないし、実際にはiTunes他の配信でめちゃくちゃ売れているのだった。特設サイトを設けて、各界のアーティストによる宇多田ヒカルをテーマにした作品を公開するなど、ネットでのプロモーションに力を入れた甲斐もあってか、ランキングでは常にトップを維持し、それぞれのファンが「このカバーは凄い」「原曲を超えたかも」「やっぱり宇多田に帰ってきてほしい」とさまざまな声を寄せている。結果的に見えてくるのは、オムニバスCDの不要論。それに尽きるのではないかと思う。

 客が対価を払うのはCDディスクそのものではない。アーティストの思いのこもったデザインやインナースリーヴ、写真集やDVDもついた豪華ボックスというカタチにして、ようやくCDは売れるのだ。今回の作品にパッケージのこだわりは確かにある。コレクター性も高い。ただし本人が動いておらず、特典は『予約した方に試聴会』という程度。ファンはそれでは動かない。というかCD盤を所有する意味がないのかもしれない。一曲ずつを寄せ集めたディスクに過ぎないのなら一曲ずつDLするのと同じこと。宇多田ヒカルほどの話題性と完成度を誇るカバー集が今後いったい何枚生まれるかはわからないが、それがパッケージとしてバカ売れする時代は二度と来ないだろう。

 堂々の1位は東方神起『WITH』。通常版のほかDVD付きが二種類あり、すべての初回特典としてジャケットサイズカード(全6種類のうちランダム一種を封入)が付くという、ファンならば3種それぞれ買わずにはいられないパッケージである。これが堂々の233,216枚。ぶっちぎり。グループに根強い人気があるのはもちろんだが、特典商法はもはや「悪」ではないのだなと思わされた今回のチャートである。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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