東海岸には禁欲的な“ストレートエッジ”のパンクスも 現役パンクロッカーが米国各地のシーンを紹介

アメリカ東海岸、ワシントンD.Cには“ストレートエッジ”のシーンも

 東海岸で触れておきたいのが、今回のツアーで初めて行ったワシントンD.Cだ。ここは現Fugaziのイアン・マッケイがやっていたバンド・MINOR THREATに代表されるストレートエッジ(酒、煙草、麻薬をやらず、快楽目的のみのSEXもしないという思想のパンクス)の発祥の地であり、現在でも色濃くそのシーンがある。

 今回行ったライブの対バンもほとんどがストレートエッジで、客にもストレートエッジが多かった。しかし、このストレートエッジが浸透している街の客のノリは物凄く、今回のツアーで一番盛り上がった。一緒に廻ったバンドの人間に尋ねてみたところ、ストレートエッジは快楽的な事を何もしないため、唯一音楽が快楽的欲求を満たしてくれるので、みんな本気で集中してライブを観て楽しむという事だった。

 ライブハウスにはバーが併設され、結構たくさんの人間が酒を飲んでいたので、厳格なストレートエッジとそうではない人間がいそうではあるが、とにかく盛り上がりが凄かった。初めて訪れたが、行って良かったと心から感じたし、終わった後に客と話していてもストレートエッジだが、それを押し付けるワケではなく、自分の信条に誇りを持って生きていて、純粋にハードコアパンクを楽しむ観客達に感動した。

ASPECTS OF WAR
ボストンの若手D-BEATハードコアバンド・ASPECTS OF WARのライブ。ボーカルがまだ19才とかなり若いが、素晴らしいライブだった。ボストンパンクスここにあり。

 ニューヨーク周辺はさすがにパンク人口が多く、ニューヨークシティ、フィラデルフィア、ボストンなどでは頻繁にパンクのライブが行われているようだ。初めてボストンを訪れた2004年は、ボストンハードコアの激しさがまだ残っているためか、ライブハウスの中に警官がずっといて観客やバンドを監視していた。今回10年ぶりに同じライブハウスでやったが、そんなことは無く、若手D-BEATのASPECTS OF WARなど、素晴らしいバンドも居て、10年前から変わらずパンクシーンが盛り上がっているようだ。

 ボストンの代表的バンドと言えば何と言っても80年代に活躍したGang Greenだろう。前述のストレートエッジに真っ向から対抗するかのような、ありえない量のコカインでバンドロゴを書いた1stシングルはあまりにも有名だ。サウンドの方も疾走感あふれるハードコアで世界中に多くのファンがいる。筆者もアメリカのハードコア・パンクの中でかなり好きなバンドだ。他にも後のグラインドコアに多大な影響を与えたSIEGEなどが、ボストンハードコアの代表ではないだろうか。

 東海岸といえばニューヨークだが、かつてはAgnostic FrontやCro-Magsなどのハードコアが猛威を振るい、ギャング的で暴力的な面を見せたかと思えば、BAD BRAINSやMISFITSなど、パンクの枠を飛び越えたバンドも生まれたアメリカの中心地だ。筆者のバンドもライブをやった事があるが、以前はマンハッタンにCBGBやニッティングファクトリーという老舗ライブハウスがあり、そこでは数々の伝説のライブが行われていた。しかし、今ではもうCBGBも無くなり、ニッティングファクトリーも場所をマンハッタンから移した。今はもうマンハッタンでライブハウスの営業をするのが難しくなって来ているのではないかと、地元の人間も言っていた。

 今回はマンハッタンから橋を渡ったブルックリンで2回ライブを行った。さすが大都会ニューヨークのため沢山の客が来て盛り上がり、日本人もツアー中のどの街よりも一番多く来ていた。一緒に出演した地元のバンドのレベルも非常に高く、さすがニューヨークと感心した。ニュージャージーでもライブをやった事があるが、ニューヨーク周辺はどこでも沢山客が来る印象だ。

career suicide
カナダのフェスでの地元バンドcareer suicideのライブの様子。日本にも来日経験があり、友人でもある彼等のライブは圧巻だった。

 ほかにも東海岸にはペンシルベニア州フィラデルフィアや、DROP DEADの地元ロードアイランド州プロビデンスに、バージニア州リッチモンド、少し内陸方面、中東部方面に入ればペンシルバニア州ピッツバーグやオハイオ州クリーブランド。カナダのモントリオールやトロントなど、ここでは紹介しきれない面白い街がたくさんある。アメリカ東海岸ツアーをする機会やライブを観に行く機会があれば、訪れて損はない街ばかりだ。

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる