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森朋之の音楽シーン探偵

人情話から下ネタまで……面影ラッキーホールが描き出す、市井の生々しい人生物語

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いやおうなしに
森朋之
舞台
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 2015年1月からスタートする舞台「いやおうなしに」(脚本:福原充則 演出:河原雅彦)は、“面影ラッキーホール”(現在はOnly Love Hurtsに改名)の楽曲をもとにした“歌謡ファンク喜劇”。古田新太、田口トモロヲ、小泉今日子、三宅弘城、高畑充希などの豪華なキャストが揃ったこの舞台によって、知る人ぞ知る存在だった面影ラッキーホール(以下O.L.H)はさらに多くの音楽リスナーに浸透していくことになるはずだ。

 '94年、ボーカル/作詞のACKY、ベース/作曲のsinner-Yangを中心に結成されたO.L.H。バンド名は日本初の医療用ダッチワイフ「面影一号」と、80年代に新宿・歌舞伎町などに存在した風俗「ラッキーホール」(壁にあいた穴に○○○を入れて、○○○○してもらう)を合わせたもの。このバンド名だけでも魅惑的なヤバさが伝わってくるわけだが、さらにヤバいのがその歌の世界。そこには市井の人々の生々しい人生に裏打ちされた、豊かな物語——人情味あふれる感動ストーリーからエゲつない下ネタまで——が込められているのだ。

「俺のせいで甲子園に行けなかった」
「好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた」

 と、曲のタイトルを並べるだけでも、その奥深いストーリー性を感じてもらえるはず。「俺のせいで〜」は、甲子園行を決めていた高校の男性生徒が、他校の生徒に彼女を“犯られ”、その復讐のために行動を起こすという内容で、「好きな男の名前〜」は、「でもあたし おろしたくない」と思っている女が好きな男を困らせるためにコンパスの針で男の名前を刻むという歌。昨今のJ-POPはもちろん、映画やドラマでもなかなか取り上げられることのない“悲しくてマヌケだけど、じつは当たり前にあること”をひとつの歌として成立させるセンスと技術は本当に稀有だと思う。

 舞台「いやおうなしに」で使われる「ゴムまり」も凄まじい。この曲のテーマはドメスティック・バイオレンス。シングルマザーが暴力癖のある若い男と付き合い始め、「捨てられるのが怖かった」といろいろ我慢しているうちに幼い娘を蹴り殺されるという歌なのだが、このあまりにも悲惨な内容にはファンの間でも賛否両論が巻き起こった。しかし、ここで歌われていることもまた、週刊誌やニュースなどでよく耳にする“よくある出来事”だ。

 かつての歌謡曲は世相を反映し、市井の人々の感情を掬い取る機能を確かに備えていた。だが、'90年代に入り、歌謡曲がJ-POPと呼ばれるようになるとその機能はすっかり消え、会いたいとか会えないとか、いろいろ大変だけどとにかく頑張っていこう!みたいなボンヤリとしたポップスばかりになってしまった。“きれいごとばかり歌ってもしょうがない。だって、現実ってこうでしょ?”と突きつけてくるようなO.L.Hの歌に嫌悪感や拒否反応を覚える人もいるかもしれないが、個人的には“これこそが歌の役割である”と強く思う。まあ、ふだんO.L.Hを聴いてるときは「ひでえ歌だな〜」とゲラゲラ笑ったりしてるだけですが。

     
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