西野カナ・椎名林檎・Dreamの新曲に見る「恋愛観」とは? 猪又孝がラブソングの情景を分析

 ラブソングの主人公を勝手に妄想しちゃえ……そんなテーマで始まった当連載。第一回を執筆するにあたって編集部から送られて来た課題盤は、西野カナの『with LOVE』、椎名林檎の『日出処』、そしてDreamの『ダーリン』。いずれも女性性を強く打ち出していて女性に人気のアーティストだし、いくら妄想とはいえ、彼女たちが描く世界観を男の俺が深く理解できるのか!? 少しばかり不安ですが、どうぞお付き合いのほどを。

 西野カナのアルバムは、恋愛ソングの新女王だけあって、全体がいろんな恋愛の処方箋のような作り。彼女は今年25歳になったが、収録曲「25」の主人公は、「25歳・独身・働く女子」だろう。大学進学で地方から上京してきて、渋谷、青山、恵比寿、丸の内辺りの会社に就職、そろそろ仕事にやり甲斐を見つけ始めた都内在住のOLと妄想する。《適当だったスキンケアだって見直さなくちゃ》《3年前の派手なスカートはもう卒業しなきゃ》ということは、大学時代は合コンで朝まで盛り上がって化粧を落とさず寝たこともあるんだろうし、ということは男関係もそこそこ(わりと?)充実していたはず。年齢的には、学生時代の合コンで知り合った男性とうまくいった友達や地元で就職した同級生から《久々のメール 結婚するの来月》というのもリアリティーがある。

 国税庁「民間給与実態統計調査」によると、平成24年の20代前半(20歳~24歳)の平均年収は242万。これを12ヶ月で割ると月収は20万。そこから毎月かかる費用を引いてみる。都内なら駅近オートロック2階以上のワンルームで家賃は8万くらいか。光熱費1万、通信費1万、食費3万。奨学金の返済もあるかもしれないし、引っ越しやパソコンのローンもあったりするかもしれない。となると、自由に使えるのは月3万くらいか。そうなると《大人のためのスタイルマガジン》を読んで《あのハイヒールもバッグも欲しい でもだいたい手が届かない》は全然頷ける話。ひょっとしたら最近妙に高級志向のユニクロだって手が届かないかもしれない。「25」は、そんなイマドキ25歳女子の胸の内を描写。《独りぼっちになりたくない/まだ自由でいたい/ドキドキする恋がしたい/でも危険な賭けならしたくない》と、仕事と恋愛、社会の厳しさと学生気分のユルさの狭間で揺れ動く気持ちを描いている。

 とはいえ、本作で描かれている女子はくよくよしてなくて、基本、楽観的なのがポイント。凹んだって《甘いものほおばったら自然と涙が止まった》し、《お気に入りのハイヒールは靴擦れがいつも痛いけど やっぱり今日の服にはこれしかない》とオシャレに気合いを入れて出掛けるのだ。そんな歌詞が出てくる「Love Is All We Need」は、好きなモノに囲まれてたら人生万事うまくいくでしょ、大事なものは意外と近くにあるでしょ、というお話。「Tough Girl」は彼氏へのイラツキを描いているけど、それだって彼氏がいるわけだから、ある意味充実ライフ。「Darling」も「嫌よ嫌よも好きのうち」をテーマにしているが、恋愛真っ只中のウキウキが臆面もなく伝わってきて、駅前とかで堂々とキスしてるカップルを見かけるとこっちが思わず目を伏せてしまうのに似た照れくささを感じるほどだ。“会いたくて会いたくて震えていた”彼女だけど、本作は全体的にハッピーでハートフル。ときに甘酸っぱくて子どもっぽいのもまたレディーとガールの狭間にいる25歳の恋なのだろう。

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